80年代までの学知がまかり通る不思議

安田氏:それにしても、日本では、「コンセプトの独り歩き」が本当に多いですよね。何年かに一度は「海外からの最新理論」が本質を欠く形で独り歩きしている印象です。少しうがった見方かもしれませんが、これはコンセプトを独り歩きさせたほうが、コンセプトを売りにしているコンサルティング会社の仕事になるから、と見ることもできるでしょうか。

星野氏:そうですね。「これは我が社が独自に開発したモデルです」といったうたい文句に多くの企業が乗せられているというのが本当のところではないかと思います。

 もちろん、その背景に世界最先端のビジネス戦略があって、クライアント企業がものすごく利益を上げている、といった話ならばいいのですが、どうもそういうわけでもなさそうですね。

安田氏:そもそもコンサルティング会社の報酬って、時間給の場合が多いですよね。もちろん、「上級」のコンサルタントには一定の金額が上乗せされるといった具合に、役職に応じた料金の差別化などは行われています。けれども基本的には、かかった時間や費用に比例して料金を決める「コスト上乗せ型」のプライシング(価格設定)になっていて、成果や顧客利益とは直接関係なく金額が決まってくる。これは需要サイドを無視したプライシングで、経済学の教科書などでは、しばしば「悪いお手本」として登場する方法ですよね。

 洗練された経営手法をアドバイスしているはずのコンサルティング会社の報酬体系自体が、いまだに原始的な方法に頼っている。こうした点を観察するだけでも、この業界で何かおかしなことが起きている気がしてきます。経済学者など、コンサルタント業界の外側にいる人たちが本気を出すことで、従来のコンサルティング会社とは違う形のバリューを生み出せるチャンスがあるんじゃないかと思います。

星野氏:同感です。戦略コンサルティングのフレームの多くは、80年代までの産業組織論や経営戦略論が元です。一方、膨大なデータに基づく実証研究で学術が現実の現象を精緻に説明できるようになったのが2010年代以降。海外では企業が経済学の学知をこぞって取り入れたのがこの頃ですね。

安田氏:それで星野さんは、今回の本でも「企業は戦略コンサルと組むより経済学者と組んだほうがいいのではないか」と提案しているわけですね。

星野氏:経済学がビジネスに与えられる価値が非常に大きいのは、GAFAはじめ海外の先端企業で活用されていることからも分かります。

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