海外発の「最新手法」は、なぜ危ないか?

安田氏:関連して、以前、経営学者の稲水伸行さんから伺った印象に残る話があります。「日本や欧州で導入される経営理論の多くはメード・イン・アメリカだが、なかには、日本企業を元ネタとして構築された理論もある」という指摘でした。トヨタ自動車の「カイゼン」などはその代表例でしょう。

 米国の企業の大多数は圧倒的なトップダウン型です。いかにボトムアップで現場の声を吸い上げるかということが1980年代の日本企業の事例を基に研究され、新たな経営理論が構築されました。従来の米国企業に足りなかったものを、日本企業のあり方を参考にして補ったわけですね。

星野氏:にもかかわらず、日本人はそれを「最新の理論」として輸入しようとする。

安田氏:そうなんです。「最先端の米国式を学ぼう」とばかりに導入すると、実はすでに実践してきたことを、よく分からない横文字を使って学び直す、といった非効率が起こりかねません。

 こうした輸入が有効な場合もあるかもしれませんが、むしろ日本企業に足りていないのは、逆に米国企業ではすでに実践されてきたトップダウンの意思決定や、それこそ「利益」という単一指標でビジネスを考えることでしょう。稲水さんは、はやりの横文字の「○○理論」や「○○組織」に飛びつくことに警鐘を鳴らしていて、私も大きくうなずきました。

星野氏:海外で構築された理論を、何が必要で不要かと考えずに無条件にすべてを受け入れようとするのも問題ですね。

安田氏:都合よく切り取ってもダメ、無条件にすべてを受け入れようとするのもダメ。だからといって海外から学ぶものはないと考えるのは行き過ぎですが、経営学の全体像を俯瞰(ふかん)して、利益を上げるために必要なものを見極める見識が、特に経営陣には求められますね。そうでないと、安易に飛びついたコンセプトを部下に押し付けて、かえって社内のモチベーションを下げてしまうということが起こりかねませんから。

星野氏:最近だとDX(デジタルトランスフォーメーション)でそういう問題が生じていますね。

安田氏:確かにここ数年、どこを向いてもDX、DX と騒がれていますが、その内実はちょっと疑問ですね。

 本来DXは、組織やビジネスの変革(トランスフォーメーション)を伴うデジタル化、あるいは変革を促すデジタル化を指すキーワードだったはずです。にもかかわらず、いつの間にかデジタル技術の導入自体が目的化してしまい、DXの精神に反する「変革なきデジタル化」が横行しているようにも感じます。

星野氏:やはり利益という単一指標をもって、何のために、どこをDXすると最も費用対効果が高いかということを考えなくてはいけません。DX化にも優先順位があるはずで、最も利益貢献が高いDX化は何なのかを考えれば、ただのコストカットの守りのDXより、新規事業での攻めのDXを先に行ったほうがいいことになるかもしれません。

 ところが多くの企業では「はやりのDXに乗り遅れるな」という浅はかな捉え方をしたために、本当にDXにコストをかけるべきところにかけられなかったりして、結局、うまくいかなかったというのはよく聞く話です。AI(人工知能)の導入でも似たようなことが起こっているのではないでしょうか。こうした、本質を無視した「コンセプトの独り歩き」に悩まされている企業は多いと思います。

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