日本企業はなぜ経済学者を雇わないのか

 自然科学では、エンジニアリングの重視は当たり前です。経済学は歴史が浅く、本格的に科学となったのはおそらく20世紀半ばくらいでしょうか。最近ようやくエンジニアリングを重視できる段階に入ったのだと思います。

 細かいことをいうと、2002年にアルヴィン・ロス氏という学者が「The Economist as Engineer」という論文を公刊し、それが学界のムードを変えました。

 「えっ、ムードってなに?」と思われるかもしれませんが、雰囲気って大切なんですよ。学問は人間がつくっているもので、自分はどういうものをつくるか、他者がつくったどういうものを評価するかに、学界のムードは大きく影響するんですね。

 ロス自身、エンジニアリングな経済学を発展させてきた人です。彼は腎移植マッチングや研修医制度の設計などで多大な貢献をして、2012年にノーベル賞を授与されています。

 話を戻しましょう。エンジニアリングな経済学の歴史はまだ若いです。特にいま日本社会の中枢にいる年代の人は、よほど学び続けている方でない限り、エンジニアリングな経済学をほぼご存じないでしょう。経済学部出身の方でも、ほとんどキャッチアップできていないのではないでしょうか。厳しい言い方になってしまうかもしれませんが、だからこそ、いまだに経済学が日本企業の武器になっていないのです。

 わたしが残念に思うのは、もし企業が経済学博士を積極的に雇用したり、ビジネスパーソンと経済学者が幅広く人事交流する機会があったりしたら、エンジニアリングな経済学はもっと早く日本社会に広まっていたであろうことです。

 もちろん、こうした流れを生み出せなかった責任は、サイエンス教育にばかり特化して、エンジニアリングを疎(おろそ)かにしてきた大学にもあります。この点では、日本は米国に少なくとも20年は後れをとっています。では、この状況を変えるためにどうすればよいのでしょうか。

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