「1型糖尿病の方の夢を応援するコミュニティーをつくりたい――」
今年2月15日、クラウドファンディングサイトで1つのプロジェクトが始まった。
企画を立ち上げたのは岩田稔氏、38歳。名前を見てすぐに気づく人がいるかもしれない。そう、彼は16年間、プロ野球選手として活躍した人物だ。
彼をよく知る人であれば、長年、病と戦い続けていることも知っているはずだ。高校時代に1型糖尿病を発症。2005年のドラフト会議で「希望枠」として阪神タイガースに入団した後も、病と戦いながら活躍し、09年に行われた「第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」では初めて日の丸を背負って大会2連覇に貢献した。プロ野球では通算200試合に登板して60勝82敗の成績を残し、昨シーズンをもって16年の現役生活にピリオドを打った。

球団の「コミュニティアンバサダー」や野球の解説者や評論家としての仕事も手掛ける一方で、岩田氏がセカンドキャリアとして切り開た道が起業だ。今年に入って、自らが代表となるFamily Design M(大阪府守口市)を立ち上げた。ミッションは同じ病気を抱える患者たちのコミュニティーづくりだ。
糖尿病と聞けば、多くの人は過食や肥満などの「生活習慣病」と思うだろう。だが、1型糖尿病はそれとは異なる。
糖尿病には大きく2つの種類がある。運動不足や肥満(過食)、ストレスといった生活習慣的な要因が関係するのは「2型糖尿病」。1型糖尿病は自己免疫疾患異だ。
本来は体を守る働きをする免疫が自身を攻撃してしまう自己免疫反応により、インスリンの働きが悪くなって血糖値が上昇してしまう。生活習慣に関係なく突然発症し、現代医療では完治する方法がない。生きている限り、毎日何度もインスリン注射を打つ必要がある。
糖尿病のうち、2型がおよそ95%を占め、1型はたった5%にすぎない。それだけに1型の社会的認知は低く、世間が抱く誤解も多い。1型糖尿病患者に対して「怠惰な生活習慣のせいだ」と誤った指摘をする人もいれば、「大変な病気だから社会への参画も難しいのでは」と気遣う人もいる。毎日のインスリン注射は必要だが、スポーツや飲酒も可能で、大きな制限なく生活ができる。岩田氏は自らが長年にわたりプロ野球選手として第一線で活躍を続けたことで、それを証明してきた。
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