3年でサブスク契約を300%以上増やしたベゾスの魔法

 ベゾスをトップにいただいたことには、大きなリスクが取れるようになる以外にも効果があった。たとえば広告。とびきり有名なビジネスパーソンと近しいだけで光り輝くのだ。広告チームがつくった営業用資料の2ページ目では、光り輝くような笑顔と頭の経営者の顔写真に並べて大きく「ベゾス効果」がうたわれている。

 広告部門幹部だった人々によると、アマゾンの子会社ではないとくり返し説明をしているのだが、ベゾスが関わっているからとスポンサーが集まる状況だったらしい。事業系幹部も次のように述べている。

 「これが最大のメリットだったかもしれません。これもジェフ・ベゾスという魔法なんです。彼がジェフ・ベゾスだからなんです」

 ワシントン・ポストは株式が非公開となったので決算を公表していない。だが、財務の数字を知る立場にある幹部によると、2015年から2018年で広告収入は4000万ドル増えて1億4000万ドルになったし、デジタル版の購読契約は300%以上も増え、150万件を突破したという(バロン編集主幹が引退した2021年1月には300万件に達する)。2015年は1000万ドルほどの赤字を出しているが、その後3年で1億ドル以上を稼ぎ出した。ベゾスが事業計画を却下したとき予測されていた数字から考えるとすさまじいばかりの回復だ。これほど速く再建が進むとは驚きだとベゾスも幹部グループに語ったらしい。

 運もよかった。ドナルド・トランプ大統領がめちゃくちゃをしてくれたおかげで、政治ニュースへの関心がかつてないほど盛り上がったのだ。だがベゾス本人が、彼の経営手腕が、さらには、報道事業の変革期という現実を彼がきちんと見据えたことが、創業140年の老舗に明快な戦略をもたらしたのも、また、まちがいのない事実である。

(翻訳=井口耕二)

日経BOOKプラス 2022年4月26日付の記事を転載]

世界的ベストセラー『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』著者、待望の続編!

止まらない発明、秘密のプロジェクト、大失敗、歴史に残る成功と急成長、圧倒的な権力、うずまく不満と批判、不倫、離婚、再建、パンデミック(世界的大流行)、退任――。

アマゾン創業者にして、20兆円超の個人資産で世界一の富豪にもなったジェフ・ベゾス。その猛烈CEOが率いて、キンドル、アレクサ、アマゾンゴー、AWSなど次々と発明をくりかえしてきたアマゾンについて、表から裏まで、トップジャーナリストが描き出す。

ブラッド・ストーン(著)井口耕二 (翻訳)、日経BP、2420円(税込み)
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