前回も出ましたけれど、不愉快な顔をして、時間ばっかり気にして、ぱっと帰っていくというのを食らったら。
川内:ショックですよね。「ああ、私、捨てられたのかも」と思うかもしれない。
短時間でも全然いいので、機嫌のいい顔で親との時間を過ごせるような状況に持っていく、というのが、地味なようで実は結構大事という。
松浦:地味のようでさっきの八百比丘尼の話とつながってはいて、社会の側がそういうことが実現できる慣習をつくらないと、ってことですね。
川内:いい親孝行が無理なくできる社会ですね。
と言いつつ、松浦さんご自身はどうなんでしょう。
松浦:ん?
松浦さんは「もうイヤだ」と思わなかったのか?
『母さん、ごめん。2』を読んだ方は皆さんそう感じると思うんですが、松浦さんはとにかくお母さんが大好きすぎて、怒られようが、絡まれようが近くにいたい、みたいな感じがするんですが。無理しなくても、自然に「母親の側にいたい」と思ってらっしゃるような。
2017年1月末に母が入所し、3月から体力の回復した私が、ホームに通い始めた。4月、5月、6月、と私は母の「退屈だ」「ご飯がまずい」という愚痴を聞いては対応し、スタッフの方たちと話をし、Kホーム長に相談し、母の過ごす環境を整えてきた。持ち込んだサイドボードの上には、亡父の写真の入った写真立てを置いた。その横で徐々に本が増えていく。愛用していたコスメボックスは封を切った使いかけの化粧品で一杯になっていたので、ひと通り整理した上で、「必要に応じて使ってください」とスタッフの方に渡す。CDラジオプレーヤーを持ち込んで、気に入っていたCDが聴けるようにする―。
(『母さん、ごめん。2』46ページより)
松浦:いやあ、そうでもないとは思うんだけれども。でもまあ、結構まめに行ってるなとは思う(笑)。
本当ですよね。
川内:「やーめた」とか、「俺、もう行きたくない」とかってならなかったんですか。
松浦:今はちょっとそういう状況ですね。「母の命を88歳まで引っ張ったから後は何とかしてよ」みたいな気分になっています。
でももしかしてすごく正しいんじゃないですか。その反応って。
川内:そうなんですよ。実は。そうだと思います、私も。
行きたくなったら行けばいいと思います。88歳ってすごいですよ。
松浦:そう思えたのは、やっぱり前のホーム長さんが、「つらいときは来なくてもいいんですよ」というのを口癖のように言っていたおかげですかね。
すごい。
川内:いいホームですよね。自分も読みながら何度も「いや、この声掛けだよ大事なのは」と思いました。そういうホームを選ばれたのは大正解だったと思います。
松浦:言われたのは、「つらかったら来なくてもいいんですよ。でも、その気になったら来てくださいね。僕らにはできなくて家族にできることというのはありますから」と。
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