親を「グループホーム」に入れたらどんな介護生活になるのか。

 そもそも「グループホーム」とは、どこにある、どんなところなのか?

 親が高齢になれば、いずれ否応なく知らねばならない介護施設、その代表的なものの一つである「グループホーム」。『母さん、ごめん2 50代独身男の介護奮闘記 グループホーム編』で、科学ジャーナリスト、松浦晋也さんが母親をグループホームに入れた実体験を、冷静かつ暖かい筆致で描き出します。

 介護は、事前の「マインドセット」があるとないとではいざ始まったときの対応の巧拙、心理的な負担が大きく変わってきます。本連載をまとめた書籍で、シミュレーションしておくことで、あなたの介護生活が「ええっ、どういうこと?」の連続から「ああ、これか、来たか」になります。

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 本書の前段に当たる、自宅介護の2年半を描いた『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』は、電子版集英社文庫が発売中です。

 母が退院してグループホームに戻ってくれば、介護の主体は家族からホームへと戻る。そうすれば、私は毎日病院に通わなくてもよくなる。週に1回と決めた面会に通えばいい。それだって実際には間が10日になったり2週間になったりだったのだから、つまりは入院時に比べると負担が一声で10分の1以下になる。

 2018年4月11日に、大腿骨頸(けい)部骨折の治療を終えて母が退院した時、私はそんなふうに考えていた。自分は4月3日に起きた交通事故で左足指2本を骨折して、全治2カ月の診断を受けた。痛む左足をかばって松葉杖つきつつの病院通いは、予想していた以上に大変だ。母が退院した時点で、左足は近所のスーパーマーケットに行くのすら億劫になるほど痛かった。

 正直に書くならば、グループホーム通いも今までより少し間を空けるつもりだった。とてもではないが、あれこれ妄想をしゃべり散らす母に付き合う気にもなれなかったのだ。

 ところが、退院から3日目の4月14日土曜日の昼前、ホームから電話がかかってきた。

 「背中が痛いと言って嘔吐(おうと)しました。かかりつけの先生は腰椎圧迫骨折の可能性があると判断して、救急車による緊急搬送を指示しています」

えっ、また病院?!

 うわ、また病院。しかも大腿骨とは違う原因で緊急搬送かっ。

 搬送先は骨折で入院していた市民病院ではなく、昨年脳梗塞で入院した総合病院だった。それっと駆けつける――と書きたいところだが、バスに乗って駅に行き、電車に乗って、さらに最寄り駅からは、松葉杖ついてえっちらおっちら歩き……。

 病院での検査では、幸いなことに腰椎は正常だった。血液検査で肝臓ないし胆のうに問題がありそうだと判明。胆石による胆管か胆のうの炎症ではないかということになり、麻酔をかけて口からの内視鏡検査を実施。

 今回の病気は胆管炎だった。人体は脂肪を消化するために肝臓で胆汁という液体を生産している。この液を肝臓から十二指腸に流すための管が胆管だ。胆管の途中には胆汁を一時貯蔵する胆のうという袋が付いていて、胆のうに溜まっている間に胆汁は水分を抜かれて濃縮される仕組みになっている。

 この胆のうで濃縮された胆汁が限度を超えて結晶化し、胆石となるのが胆のう結石症だ。胆石生成の原因は他にもあるのだが、細かな話になるので委細は省く。

 できてしまった胆石が胆のうから流れ出て、胆管に詰まるのが総胆管結石症だ。母の場合は胆石まではいかないがゼリー状にまで濃度が上がった胆汁(これを胆泥:たんでいという)が、胆管に半ば詰まった状態になって炎症を起こしていたのだった。

 施術後の医師の説明曰く、「その場でカテーテルを使って胆管内でバルーンを膨らませ、胆泥を掃除しました」。内視鏡と共に胆管内まで先端が風船のように膨らむカテーテルを挿入。膨らませて胆管内に詰まりかけていた胆泥をこそぎ落としたのだという。

 「これで大丈夫だと思います。後は細菌感染を防ぐために抗生物質の投与をします。1週間ほど入院してもらいます」

 かくしてバトンは、またもグループホームから家族へと戻って来てしまった。病院通いの再開である。

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