親を「グループホーム」に入れたらどんな介護生活になるのか。
そもそも「グループホーム」とは、どこにある、どんなところなのか?
親が高齢になれば、いずれ否応なく知らねばならない介護施設、その代表的なものの一つである「グループホーム」。『母さん、ごめん2 50代独身男の介護奮闘記 グループホーム編』で、科学ジャーナリスト、松浦晋也さんが母親をグループホームに入れた実体験を、冷静かつ暖かい筆致で描き出します。
介護は、事前の「マインドセット」があるとないとではいざ始まったときの対応の巧拙、心理的な負担が大きく変わってきます。本連載をまとめた書籍で、シミュレーションしておくことで、あなたの介護生活が「ええっ、どういうこと?」の連続から「ああ、これか、来たか」になります。
書籍・電子版で発売中です。
本書の前段に当たる、自宅介護の2年半を描いた『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』は、電子版、集英社文庫が発売中です。
3月23日に母が大腿骨頸(けい)部骨折で市民病院に入院。27日に人工関節への置換手術が成功。ここでほっとした私は30日に友人たちと東京に集まって一席囲んだ。いくらかの解放感があったのか、私は久しぶりの深酒でしたたか酔っぱらった。その結果、帰宅する際に私は。JR東日本・東海道線の車中で自分のiPhoneを落としてしまった。これが最初のつまずきだった。
翌朝、落としたことに気がつく。
iPhoneには「iPhoneを探す」という機能がある。米国をはじめとした各国が打ち上げて運用している測位衛星の電波を受信して、自らの位置を計測できるのだ。
この機能を使うとiPhoneが今どこにあるかを、調べることができる。iPhoneを開発したアップルのページにパソコンからリクエストを出すと、iPhoneの現在位置が地図上に表示される仕組みだ。
「iPhoneを探す」を使うと、東海道線・国府津駅から御殿場線・下曽我駅に向かう途中の引き込み線にあることが分かった。確かここはJR東日本の国府津車両センターだ。
ははあ、iPhoneは電車内で落として、そのまま車両内にあるなと判断し、JR東日本の落とし物を扱うお問い合わせセンターに電話して事情を話す。「あー、それでしたら車両を清掃しているはずですから、見つかったら回収されるはずです。しばらくしてからもう一度電話してもらえないでしょうか」――そうか、それなら回収できるな、と2時間ほど待ってみた。
修善寺駅へスマホを回収に行こう!
再度「iPhoneを探す」を使うと、今度は品川駅近くの路線上にいるではないか。一体どういうことか。あわててまたお問い合わせセンターに電話。「あー、見つからずにそのままになったんでしょうねえ。見つかるまでお待ちいただければ……」。いやいや、iPhoneの電池には限りがある。電池切れになったらどこにあるか分からなくなってしまうではないか。
また2時間ほど間を空けてから「iPhoneを探す」を使う。すると今度は、iPhoneは小田原を過ぎて熱海駅付近を、西に向かって高速に移動している。まずい、見つからないまま下り電車に乗っている。このまま行くとどこまで行ってしまうやら。するとiPhoneは静岡の三島駅から伊豆箱根鉄道の駿豆線に入り、終点の修善寺に向けて移動し始めた。
修善寺駅近くになった段階でこれが最後のチャンスになると判断して、私はアップルのホームページ経由のリモートでiPhoneを操作した。
画面に「このiPhoneを落とし物として修善寺駅に届けて下さい」と表示して、着信音を鳴らしたのだ。ここまで発見されなかったということは、座席の下あたりの見えないところに落ち込んでいるのだろう。としたら、音で気がついてもらうしかない。
修善寺駅到着後、しばし時間をおいてから駅に電話する。「ああ、iPhoneね。今さっき届いてますよ」――やった!これで後は修善寺駅まで取りに行けばいい。
ここで少々鉄道マニア的解説を。
3月30日、私は東京から帰るのに、東海道線の「湘南ライナー」を使った。520円を払うと座って帰れる通勤電車だ。残念ながら湘南ライナーは2021年春のダイヤ改正で廃止になってしまったが、2018年当時、車両として「国鉄185系」を使っていた。旧国鉄が1981年から82年にかけて製造した車両だ。この車両が同時期に東京から伊豆箱根鉄道に乗り入れて駿豆線の修善寺駅とを結ぶ特急「踊り子号」に使われていたのである。
つまり、私は185系の湘南ライナーの車内でiPhoneを落とした。その車両は国府津の車両センターで夜を明かし、品川に回送され、昼の特急「踊り子号」として運行されたのである。そのまま私のiPhoneは駿豆線に入り込んでしまって、終点の修善寺駅で回収されたのであった。
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