骨折と聞いて「なんだ効かなかったじゃないか」と思ったが、あるいは注射をしていたからこの程度で済んでいるのかもしれないと思い直す。注射開始時にテリボンの効果を調べたが、骨密度を数%改善するというものだったのを思い出した。そうだった――「やらないよりやったほうがまし、というレベルと判断し、それでもやっておいたほうがいいだろうと考えて、注射を開始したんだった」。母のケースでどの程度効いたのかは、正直なところわからない。

 幸か不幸か入院は2回目だ。なにをすべきかはもう知っている。一通りの入院手続きを手早く済ませる。困ったことに部屋が有料の個室しか空いていなかった。が、骨折しているというのにえり好みはできない。個室で入院することにする。

 手続きを終えたその足で、グループホームに回り、昨晩の当直であったスタッフのNさんから話を聞く。母は午前3時頃トイレに起き、Nさんが介助をしたのだが、ちょっと目を離した隙によろけて転倒したのだという。「ほんとうにすいません」とNさんは何度もあやまる。

食事を管理すべきだったのか?

 この時期の記録を見返すと、母の体重がかなり増えていることに気が付く。過食が出ていたのだ。3月初めの時点での母の体重は59kg。若かった頃の母の身長は155cmで、その後老化による骨の脱灰で数cm縮んでいるから、明らかに太りすぎだ。前に書いた「甘い物は少し控えないと」と言われて差し入れにお菓子を持って来にくくなったのは、この頃であった。増えすぎた体重が、骨折の原因のひとつになったことは否めない。

 ――と、考えていたのだが、後に「NPO法人となりのかいご」の代表理事を務める川内潤さんに話したところ、「“おいしいものを我慢していれば、骨折を防ぐことができたのでは”などと考えてはいけませんよ」と注意された。

 認知症老人の骨折に当たって、家族が「もっときちんと食事を管理していればこんなことにならなかった」と考え、食事を過度に管理しようとすることがあるのだという。そうなる介護する側は強圧的になり、介護される側は食べたいものが食べられなくなって不満が溜まり、大変危険な状態になる。

 特に自宅介護の場合は、そういう間違った考えにはまり込んでしまった家族を周囲が押しとどめるはなかなか難しいのだそうだ。「お母さまがホームに入居していてよかったです」とまで言われてしまった。

 さて、ここまでの大けがとなると、退院後の母の処遇も問題となる。主治医からは「リハビリ専門病院に転院するか。それともホームに戻るかの2つにひとつでしょう」と言われる。これはKホーム長と相談し、グループホームに戻って日々の生活の中でリハビリを行うことにした。リハビリ専門病院に比べれば及ばない部分はあるだろう。が、認知症が進行しつつある母が、どこまで意志を持ってリハビリに励むか分からないと考えたのだ。それならば「いつもの場所」で安心して過ごせるほうがいい。

 ホームからはずいぶんと謝罪された。Nさんから「すみません」と言われ、Kホーム長からも「申し訳ありません」と言われた。それも何度も。それは確かにあやまらねばならぬ事態なのであろう。しかし、より重要なのは、再発を防ぐことだ。いったいどうすればいいのだろうか。

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