親を「グループホーム」に入れたらどんな介護生活になるのか。

 そもそも「グループホーム」とは、どこにある、どんなところなのか?

 親が高齢になれば、いずれ否応なく知らねばならない介護施設、その代表的なものの一つである「グループホーム」。『母さん、ごめん2 50代独身男の介護奮闘記 グループホーム編』で、科学ジャーナリスト、松浦晋也さんが母親をグループホームに入れた実体験を、冷静かつ暖かい筆致で描き出します。

 介護は、事前の「マインドセット」があるとないとではいざ始まったときの対応の巧拙、心理的な負担が大きく変わってきます。本連載をまとめた書籍で、シミュレーションしておくことで、あなたの介護生活が「ええっ、どういうこと?」の連続から「ああ、これか、来たか」になります。

 書籍・電子版で本日、6月23日発売です。

 本書の前段に当たる、自宅介護の2年半を描いた『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』は、電子版集英社文庫が発売中です。

 前回、母に発生した妄想とその経緯をまとめ、話が2018年9月まで進んだ。実は同年3月の妄想発症の直後、母はまたも入院した。それも立て続けに2回。しかもその間に自分自身も病院のお世話になるはめとなり、色々と大変な目にあったのだ。今回と次回は2018年3月から4月にかけての入院の経緯を記そう。

 母の妄想が発覚した2018年3月14日から9日目、3月23日のことだった。

 朝、グループホームから電話が入り、救急車を呼んで母を救急搬送しますという。また脳梗塞か、と身がまえたら違った。「昨日就寝後、深夜のトイレ起床で転びまして、朝になってもかなり痛がっているので骨折を疑いました」。ええええっ、また新しい災難か、とがっくりくる。

 が、がっくりきているだけではすまない。前回の脳梗塞の入院で、何をすべきかは分かっている。すべての世話がグループホーム側から家族に戻って来るので、ここから退院まで、また緊急体制だ。

よかれのアスピリンが仇になる

 搬送先として前回入院した総合病院を希望したが、ベッドの空きがない。その結果母は近くの市民病院に入院することになった。

 私が病院に駆けつけた時には、すでに診断が付いていた。左大腿骨頸部の骨折。大腿骨の骨盤に嵌まる関節の手前、骨がいったん細くなっている大腿骨頸部という部位が折れているという。治療には人工関節への置換手術が必須とのこと。

 ところが医師は「すぐには手術できません」という。「お母様ですが、脳梗塞の後に血液の凝固を防ぐためにアスピリンを服用していますね。これは手術の際に出血が止まらなくなる可能性があるので、1回抜かなくてはなりません。アスピリンの効果が完全に切れるまで1週間かかります。その後で手術します。入院期間は2週間ほどを考えています」。

 ベッドに横たわる母はおとなしくしているが、すこしでも身動きすると「痛い痛い」と大騒ぎする。大腿骨が折れているなら、それはもう想像以上に痛いだろう。脳梗塞再発を防ぐためによかれと思って服用していたアスピリンでこれか……私は目の前が真っ暗になった。

 母は元気な頃から骨粗鬆(こつそしょう)症の気があると診断を受けていて、意志がしっかりしている間は「きちんと運動しないと」とせっせと運動していた。整形外科に通い、骨粗鬆(こつそしょう)症の予防薬「テリボン」(製品名:有効成分はテリパラチド)の接種も受けていた。テリボンは通院で週1回の注射を2年続ける必要がある。母はテリボン接種の途中で認知症を発症して一度注射を中断、グループホーム入居後に再開して規定回数の注射を終えたばかりだった。

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