私は「手間をカネで買う」という方針で、入院の体制を決めていった。ケチケチしても仕方ない。少々のカネを惜しんで、増える負荷で自分の生活が回らなくなるような事態は避けなくてはいけない。
母が病室に落ちついた時、時計はもう午後10時を回っていた。母がしきりに「お腹すいた、お腹すいた」と繰り返す。夕食前の入浴から食事抜きで入院になってしまったので、無理もない。が、医師からは「今晩の食事は抜いてください」と指示されている。仕方なく、手をさすっているうちに母は就寝した。グループホームに電話して、夜勤のスタッフに状況を報告。さらに帰宅後は、弟と妹へ連絡。
翌日、グループホームに顔を出して、Kホーム長と面談した。「1週間なんですね。それなら大丈夫です」とKホーム長は言う。大丈夫とは?
長期入院になればホームから退去も
「ウチでも時々あるんですが、入院してそのままなかなか治療が進まずに長期入院になってしまうケースがあるんですね。そういう場合はいったん退居してもらって、新しい入居者の方を迎え入れるんです。今も入居希望の方はたくさん待っているので、部屋をいつまでも空けて確保しておくということはできませんから」
そうか、そういうこともあるのか――昨夜の医師の「悲観も楽観もできません」という言葉が脳裏を走って過ぎる。つまり悲観の側のサイコロの目が出た場合、母はやっと入居させたこのグループホームから退去しなければならない可能性もあるのか。
その場合は、入院で病気をきちんと治療してから、またどうするかを考えねばならない。どこに預けるにしても、かなり長期間の待機を覚悟しなくてはならないだろう。想像するだけでも気が遠くなるような事態だ。
「多分お母様の場合は大丈夫だと思いますよ。お丈夫な方のようですし。それで料金なんですが……」とKさんはグループホームへの支払いへと話を進めた。
ホームへの支払いは、個室の賃貸料のような、母が入院していてもかかる経費と、食費のように入院時はかからない経費とに分かれる。この時点では、私もあまり頭が回っていなかったのだが、最終的に入院期間中のホームへの支払いは幾分安くなり、入院費用の足しになった。捨てる神あらば拾う神ありではないが、入院という悪い状況でも、決してすべて悪いことだけではなかった。
そのまま病院に回ると、母は何度も「ねえ、なんで私こんなところにいるの?」と聞いてきた。「脳梗塞やっちゃったんで入院しているんだよ」と言うと、「そう、仕方ないね」と納得する。が、記憶が続かないのですぐにまた「ねえ、ここどこ? 私なんでこんなとこにいるの?」と聞いてくる。その都度、「入院してるんだよ」と説明する。その繰り返しで面会の時間は過ぎていった。
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