とりあえずすぐにできることは、面会時になにか食べ物を持って行くことだ。行くのは午後の時間帯が多かったので、大方はおやつ、つまりお菓子になる。和菓子や洋菓子など、ちょっと凝ったスイーツを2つ買って、ホームでお茶を入れて貰って母と2人で食べる。私はこれを繰り返し、おかげで近所の洋菓子店・和菓子店に詳しくなった。認知症は時として味覚の変化を伴うものだが、甘味の感度は比較的最後まで変化せずに残るらしい。母も、お菓子は喜んで食べた。これにはもう一つ効果があり、少なくとも食べている間は、私は母からのああだこうだの文句を聞かなくて済んだ。

 スイーツ持ってのグループホーム通いは1年以上続いたが、ある時、スタッフの方から言いにくそうに言われてしまった。「あの……このところお母様の体重の増加が続いておりまして……できれば甘い物は控えたいと思うのですが」。

 体の衰えによる運動量の低下と、過食症の再発が重なって、母が太りはじめてしまったのである。

 グループホームにおいて、入居者の体重増加はかなり深刻な問題だ。肥満が進行するとそれまでスタッフ1人でできた身の回りの世話を2人で行う必要が出てきたりするからだ。もちろん糖尿病のような慢性疾患を呼び込む可能性もあるので、過食を起こした入居者の体調管理はきちんと行わねばならない。

 というわけで、「行く度にスイーツ」というのは「様子を見つつ時々」となってしまった。

鰻の味にはうるさい母

 次にできるのが差し入れである。グループホームは集団生活なので、それなりの秩序というものがある。「ごはんがまずい」からといって、1日3食全てを差し入れるというわけにはいかない。

 まず嗜好品の差し入れ。スタッフに預けると食事の時に適宜出してもらえる。少量ならお酒もOKである。母の場合は、海苔が好物だったので海苔、そして佃煮などを持って行くようにした。お酒はどうだろうか、とビールの180ml缶を差し入れたこともあるのだが、これは母が受け付けなかった。飲めない人ではないが、自分から喜んで飲むタイプでもなかったから、これは想定の内である。

 三つ目は食事全体の差し入れだ。前日までに申し込んでおくと、ホームの食事は止めてもらえる。そこになにか食事を持参すると、訪問者と入居者とが一緒に食事をすることができる。

 私は2~3カ月に1回、鰻折り詰めを持参するようにした。実家の墓のある寺の近くには、母お気に入りの鰻の名店がある。墓参りに行く度に、そこで折り詰めを作って貰い、そのまま夕食のタイミングに合わせてグループホームを訪問する。

 折り詰めは母の分1つだけ。ホームの食事は止めず、私は母と向かい合って、母が食べる予定だったホームの食事を食べる。こうすると、日ごろ母がどんなものを食べているかを知ることもできる。

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