前回の記事「事業構想フェーズで考えるべき2つの軸とは」では、事業開発の最初の段階であるConcept(事業構想)フェーズの重要な論点について紹介しました。今回は、新規事業開発における最初の検証項目に当たる「顧客と課題」について解説します。

 不確実性をコントロールするという観点で、最初に検討することになるのは、新規事業開発での7つの検証項目の最初にくるA)「顧客と課題」(Customer & Problem)です。これは「マーケットドリブン」「ミッションドリブン」の事業構想アプローチの際には特に、優先して着手します。

 この検証活動は大きく2つのプロセスに分かれます。1つは深い洞察をもって課題の仮説を発見・構築する「①Insight」(深い洞察により課題を発見する)であり、もう1つはInsightを経て発見した課題の仮説を検証し、蓋然性(確からしさ)が高い事実として定義する「②Define」(課題仮説の検証を通じて課題を定義する)です。それぞれについての要点や、検討を進める際の注意点などについて解説していきます。

 まずは、「誰の、どんな課題を」解決する事業にするかの検討に当たる①Insightについて紹介します。主な論点は「顧客は誰か」と「どんな課題を抱えているのか」の2つです。「A・主な対象とする顧客を設定し、その顧客が抱えている課題を発見するアプローチ」と、「B・最初に課題を設定し、その課題を抱えている顧客を探索するアプローチ」で考えます。

顧客から考えるか、課題から考えるか

 Aの主な対象とする顧客を設定する場合は、例えば自社の既存事業や競合が取り込めていない顧客層を取り込みたい、などの戦略上の狙いから設定する方法があります。「現状では大手企業との取引が中心だが、競争が激化してきているため今後は広く中堅・中小企業向けにも事業を展開していきたい」とか、「今の顧客は独身女性が中心だが、年齢を重ねてライフステージが変わるのを見据えて、主婦やママ層向けの事業を展開したい」といったケースが該当します。

 社内の意志を起点にしているため、既存事業とのすみ分けや、競合とのポジショニングの違いなどは明確にしやすいでしょう。半面、より魅力的な成長市場や有望顧客を見逃してしまう可能性もあるので注意が必要です。

 一方、Bの最初に課題を設定する場合はどうでしょうか。一例として、共感や想像しやすい特定の顧客が抱える課題に着目する方法があります。自分自身や、自分の身近な人が抱えている課題に着目して深掘りし、同じような課題を他の顧客も抱えていて普遍性を持つものなのかを検討するのです。

 例えば、自分や家族が親の介護に関わる中で、えんげ食を用意し続けることに「課題」を感じた場合、その経験から「特に何に一番苦労していたのか」を考え、他の介護家族も同様の課題を抱えているのかを検討していくケースが該当します。

 自分自身や身近な人などの特定の顧客をペルソナの起点にしているため、顧客の表面的な思考や言動だけでなく、表面化しづらい心理や感情に対する共感や想像を伴った深い洞察力を発揮しやすくなります。この場合、まだ顕在化していない潜在的な課題を発見できる可能性が高いのですが、一方では非常にニッチな課題にとどまってしまう可能性もあります。そのため、「同じような課題を抱える顧客がどれだけ存在するのか」を慎重に検証しなければなりません。

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