現代は、VUCA(Volatility=変動性・Uncertainty=不確実性・Complexity=複雑性・Ambiguity=曖昧性)時代と呼ばれる。非常に変化が激しく、速く、先行きが不透明で、未来を予測することが困難な状況にある。だが、そんな中においても企業としての成長戦略を描き、実行していかなければならない。

 1つの事業や製品・サービス、ビジネスモデルの短命化がますます加速し、これまで会社の屋台骨を支えていた事業の業績が急激に悪化して危機に瀕することも日常茶飯事となった。プロダクト・ライフサイクルが急速に短くなる中で、企業は新たな事業の開発や創出に取り組み、次の柱を生み出さなければならない。いかにして新たな産業や市場を創出するか。経営者だけでなく、ビジネスパーソン個人にも問われている。

 米コーネル大学や有力ビジネススクールの仏INSEAD(欧州経営大学院)、WIPO(世界知的所有権機構)などが2007年から実施している「グローバル・イノベーション・インデックス」という調査があります。世界の国・地域がどの程度イノベーションを起こす能力を持ち、実際に成功させているかを指標により割り出し、ランキング化したものです。

 2020年のランキングで日本は16位でした。前年(2019年)が15位だったので、順位は1つダウンした格好です。1位は2019年に続きスイス。2位にスウェーデン、3位に米国が入りました。アジアでは8位にシンガポール、10位に韓国が、11位に香港、14位に中国が並びました。

 こうした指標(インデックス)を用いたランキングは世界中で多く存在し、指標もレポートによって異なるため、必ずしも各国の実勢を純粋に反映しているとは言い切れません。それでも、第三者機関が客観的に分析・調査した内容を定点観測していくことは、イノベーション力を推し量る上で1つの重要なアプローチになり得ます。

 この「グローバル・イノベーション・インデックス」のレポートを読むと、韓国は「人的資本および研究で世界的なリーダーとなり、研究開発関連のほとんどの指標、そして大学生・専門学校への入学者数、研究者数に関して上位を維持」と記載されています。また、中国は「7年連続でイノベーションの質に関して中所得経済圏の間で第1位となり、国別の意匠および特許、ハイテク、クリエーティブ商品の輸出において上位入りを達成」と注目されるなど、日本以外のアジア各国のイノベーション力について一定の言及がなされています。

 しかし日本については、その発表内容を伝えるプレスリリースにも記述は見当たらず、ランキング順位が落ちただけでなく、残念ながら注目度や存在感が薄れていることも明らかになりました。別の角度からも見てみましょう。各国のイノベーション力を評価する際に、「輩出したユニコーン企業の数」もよく比較対象になります。これは、「ユニコーン」と呼ばれる、企業価値の評価額が10億ドル(約1220億円)以上ある未上場ベンチャー・スタートアップがどれだけ存在しているかが、その国のイノベーション力を測る1つの指標になり得る、と考えられているからです。

 例えば、世界の時価総額ランキングのトップに君臨する「GAFA」と呼ばれるGoogle、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon.comといった企業を生んだ米国には、ユニコーン企業が数百社あるといわれています。

 ベンチャーから世界の情報や物流・商流を握るプラットフォーマーへと成長する企業が続々と登場するため、米国ではスタートアップに対してもリスクマネーが大量に供給され、グローバルでもトップクラスの大学のMBA(経営学修士)や技術者・研究者など優秀な人材を集めることが可能です。そして新しい事業的価値、社会的価値を生み出していくエコシステム(生態系)が拡大を続けているのです。

 また、人口約13億人という独自の巨大な経済圏を持つ中国でも、ユニコーンが数十社規模で存在するといわれます。日本がバブル崩壊後の苦境にあえいでいる時、中国は経済の改革・開放を進めて「世界の工場」と呼ばれる一大生産拠点へと発展しました。その結果得た経済力によって新しい価値を生む投資行動が誘発され、国内の巨大な人口が消費力を高めたことから、「BAT」と呼ばれるバイドゥ(百度)、アリババグループ(阿里巴巴集団)、テンセント(騰訊控股)といったテックジャイアントが生まれました。

 米中は、ベンチャー・スタートアップへの投資額や技術の研究開発費が世界的に見ても非常に大きく、桁違いです。こうした圧倒的な投資パワーに後押しされた「イノベーション力」こそが、多くのユニコーン企業を輩出する源泉となっているのです。

 一方、日本のユニコーン企業数は、現在スタートアップ界において最も企業価値が高いとされているAI(人工知能)ベンチャーのプリファード・ネットワークス(Preferred Networks、東京・千代田)や、近年上場を果たしたフリマアプリのメルカリ、クラウド会計ソフトのフリー(freee)、 直近ではスマートニュースやモビリティテクノロジーズ(東京・港)、SmartHR(スマートHR、東京・港)なども含めて、10社前後で推移しているのが現状です。ベンチャーへの投資額や研究開発費などの観点でも米中には遠く及ばず、ここでも日本は他国の後塵を拝していることになります。

 イノベーションという観点で、かつて日本は「アジアをリードしていた」「世界でも先端を走っていた」と主張する人が少なくありません。

 確かに、戦後から高度経済成長期にかけての時代、ソニーやホンダ(本田技研工業)に代表されるハードウエアを中心とした「モノづくり」で高いポテンシャルを発揮し、世界を席巻する魅力ある商品を世に送り出してきました。世界から「イノベーション大国 」「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと評され、次々に革新的な新規事業やイノベーションを創出し、注目されていたのは間違いありません。

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