ビジョンに基づくインキュベーション戦略を策定し、IRM(イノベーター・リレーションシップ・マネジメント)の概念を前提にイノベーター人材のポテンシャルを最大化するための体制を組織に導入した後、もしくは導入するのと並行しながら、いよいよ個別の新規事業開発に着手します。

 今回からは、新規事業開発に伴う不確実性をコントロールするための事業開発プロセスと、その進捗や成果を正しく管理・評価しながら「再現性の高い新規事業開発」を実行するマネジメント方法について解説していきます。

 詳細に入る前に、まず前提として認識していただきたいのは、「どのようなケースにも当てはまる万能な新規事業開発の理論や手法は存在しない」ということです。取り組む新規事業のテーマや領域によって適した新規事業開発プロセスは自ずと異なります。これから紹介するのは、主に不確実性の高い周辺領域や革新領域で、その不確実性をコントロールしながら新規事業開発を再現性高く進めるためのプロセスです。

 エリック・リース氏が提唱する「リーンスタートアップ」のほか、近年注目を集める「デザイン思考」など、大家のさまざまな手法や理論はおおむね、「事業アイデアの仮説を構築し、仮説検証と学習・修正を繰り返しながら不確実性をコントロールする」というスタンスが共通しています。この仮説・検証重視のアプローチの対極にあるのが、「従来の新規事業開発」でよく用いられてきた「調査・分析重視型アプローチ」です。

調査・分析重視型アプローチの落とし穴

 調査・分析重視型のアプローチは、既存事業やそれに近い隣接領域、また不確実性の低い周辺領域で新規事業を開発する場合、今も有効になり得る手法です。市場の動向やトレンド、顧客ニーズやデータを調査し、競合他社を徹底的にベンチマークし、自社の強みや優位性が活きる商品やサービスを検討する。「3C(Customer=市場・顧客、Competitor=競合、Company=自社)分析」などの観点を取り入れながら、いかに市場にある空白や優位性を持てる独自のポジションを見つけるか――。

 しかし、不確実性が低いということは機会がすでに顕在化していることを意味します。多くの他企業もそこに気付き、将来の参入が相次ぎ、あっという間に競争の激しいレッドオーシャンと化すでしょう。生き残れるのはごく一部の企業だけになり、価格競争が強く働いて利益が出にくい市場構造になるリスクが高いのです。

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