心の中にあった、自身の野球人生で感じた後悔
彼は、もともと印刷業を営む家業を生かす形でビジネスを拡大し、現在のグリーティングワークス(大阪市)を創業した。年賀状などの挨拶状がオンラインで簡単に注文できる「挨拶状ドットコム」というEC(電子商取引)サイトを立ち上げ、挨拶状事業における業界トップシェアに成長させた。オンライン印刷サービス関連でいうと、ラクスルをはじめ多くの企業が存在するが、同社は挨拶状に特化した戦略で、業界トップを維持し続け、この激戦区を勝ち抜いてきた。
ただ事業が順調な一方で、彼の心の中にはずっと後悔があった。それは、スポーツに関わるものだ。
実は彼は、根っからの野球少年だった。子どもの頃から野球に熱中していた彼は、中学、高校、大学、社会人と野球を続け、大学時代には全国大会で所属チームが準優勝したほどの実力者だ。まるでプロレスラーのようながっしりとした体形をしているので、アジリティー(敏しょう性)を要するようなスポーツは一見得意そうには見えない。しかし、ひとたびゴルフを始めると、すぐにナイスショットの感覚をつかんでいいスコアを出すものだから、そののみ込みの早さと運動神経の良さに驚いた。

そんな彼だが、同世代で戦っていた元阪神タイガースの片岡篤史氏や、元メジャーリーガーの田口壮氏のようにプロ野球選手になる夢はかなわなかった。そして、自分自身の野球人生を通じて、大きく3つの課題に気付くのである。
1つ目は「キャリアの溝」だ。中学3年の夏季大会が終わってから高校に入学するまで、部活動や代わりとなる活動が何もない。2つ目は「体づくり」だ。成長期に体が大きく育つ中で、故障しない体をつくるための正しい基礎トレーニングを身に付ける機会がないことである。
そして3つ目が「心の成長」だ。部活動を通して野球の技術は磨けるものの、社会で通用する人間力を養うような教育は受けてこなかった。「待っていても提供されない。これら3つを自ら補えていれば、プロになれたかもしれない」という思いが彼の中にあった。
一方、彼の息子たちも野球に熱中している。手塩に掛けて息子たちを育ててきたわけだが、中高の野球環境は自分の時代とあまり変わっていないことを目の当たりにする。そこで自らが指導者となり、息子たちに基礎トレーニングや心の教育を施した。そのかいあってか、長男は2021年夏の甲子園大会で優勝した智弁和歌山高校の4番打者を務めた。また、世界少年野球大会の日本代表に選出された経験のある次男は、22年4月から大阪桐蔭高校に進学し、今後の活躍を期待されている。
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