読者の皆さんは「関西人の経営者」にどのようなイメージを持っているだろうか。もうけ主義、狡猾(こうかつ)、がめつい、世の中への貢献より自己利益、関西弁といったイメージだろうか。

 今回は、そんなイメージを払拭する、とても美しい涙を流す社長を紹介したい。

 先日久しぶりに彼と2人で食事をした。案の定、美しい涙を流していた。

 自分の事業がどれだけ今後の若者に必要なのか。自分が展開する事業が全国に広がり、多くの若者がイキイキしている姿を想像して語る彼の目には、いつも涙が伴う。歓喜のうれし涙や感極まったむせび泣きではなく、ウミガメのように、しっとりと泣く。しみじみと語りながら、いつしか目尻に涙がたまっていく。時折、目尻から静かにこぼれるその涙は、この上なく美しいと感じる。

ウミガメのように、しっとりと泣くアスリートワークスの徳丸博之代表取締役
ウミガメのように、しっとりと泣くアスリートワークスの徳丸博之代表取締役

 今回紹介するのは、アスリートワークス(大阪市)の徳丸博之社長だ。「心・技・体」すべての側面からジュニアアスリートを育成すべく起業し、大阪の京橋と堺市にトレーニング施設を開設している。

 彼との出会いは約20年前、私が経営する会社との取引がきっかけだった。深く付き合うようになってからは12年ほどになるが、中でも印象深い記憶に「Entrepreneurs' Organization(起業家機構、以下EO)」という、世界的な経営者コミュニティーの大阪支部の立ち上げがある。彼と私を含めた複数名で立ち上げを行ったのだが、とにかく大変だった。EOの国際レギュレーション(規則)を守りつつ、僕たちの思いや大阪の地域特性も取り入れたコミュニティーにしようと思うと、なかなかベストな形にまとまらなかったからだ。

 毎晩のように、立ち上げメンバーで互いの意見をぶつけ合ったが、特に熱かったのが彼だった。いつもの涙を流しながら、「理由はうまく説明できへんけど、それは納得いかん!」などと言うものだから、正直、面倒くさかった。そんな暑苦しくて不器用な男だが、世のためという一本芯が通っていて、その芯だけは安易に曲げることはしない。彼の姿に私たちは心を動かされて議論を重ね、アジア経済のハブ(結節点)を関西に構築することを目指すコミュニティーとしてスタートできた。いい男だなと思ったものだ。

 安易に成果を求めたりするのではなく、本当に自分が納得するものになるよう、妥協を許さない男だ。彼とビジネスのあり方について議論するとき、常にお金のためなのか、それとも世の中のためなのか、ということを心の底から見つめざるを得なくなる。そこについて深く自分自身の中に確固たるものがなければ、彼との議論が失礼にあたるとも思えてしまう。

 そんな迫力を持った男が、徳丸博之である。

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