2年目には売り上げが前年比1200%の新サービス

 上野くんとの本格的な再会は2018年、僕が運営に携わっていた大阪府が主催するベンチャー企業成長プロジェクト「Booming!」に彼が応募してきたことがきっかけだ。彼は依然として、「どのようにして働くママを支援しようか」と考え続けていた。

 Booming!で、上野くんは僕に、生き生きとビジネスアイデアを語ってくれた。「知っていましたか? ママは、毎日おむつに自分の子どもの名前を書いて、保育園におむつを持って行かないと、おむつを交換してもらえないんですよ。おむつを買いに行く手間も、名前を書く手間も、替えのおむつを持参して汚れたおむつを持ち帰る手間もかかるんです。大変でしょう。こうした手間を省くために、『おむつのサブスク(サブスクリプション:定額課金)』をやろうと思います」と言うのである。

 おむつのサブスクという発想、最初に聞いて「オモロ」と思った。一方で、斬新すぎて僕には上野くんのアイデアが当初は理解できなかった。そんなビジネスが成立するのだろうかと疑問に思っていた。しかし、彼はそれから1年かけて事業内容をブラッシュアップし、BABY JOBを設立して、実際に事業をスタートさせた。

 サービス名は「手ぶら登園」で、自分たちが運営する保育園から利用を始めた。現在、保護者が負担する月額料金は3278円(税込み)。紙おむつやお尻ふきが直接保育園に届き、サイズや枚数に関係なく使い放題というサービスだ。紙おむつの価格はMサイズをネットで買うと1枚あたり20~30円程度。日本衛生材料工業連合会(東京・港)の「紙おむつ排出量推計」によると、子ども用の紙おむつの1 日あたり使用枚数は5枚程度だという。月齢や年齢によって取り換えの頻度も変わってくるが、毎月の使用量や毎日の名前書きなどの手間を考えると、比較的リーズナブルなサービスといえそうだ。

BABY JOBが提供する保育施設で紙おむつが使い放題になる月額定額サービス「手ぶら登園」
BABY JOBが提供する保育施設で紙おむつが使い放題になる月額定額サービス「手ぶら登園」

 サービスの肝は、全国の保育所などの施設に、安定した価格で紙おむつやお尻ふきを提供し続ける点にある。紙おむつはユニ・チャームと業務提携をして供給してもらう契約を結んだ。「確かに便利だけど、ママさんが受け入れられる価格でサービスを提供できるのだろうか」と僕は不安に思っていたが、手ごろなサービス利用料も実現してしまう。

サイズ別にまとめてストックできるため、保育園のオペレーション改善にもつながっている
サイズ別にまとめてストックできるため、保育園のオペレーション改善にもつながっている

 子どもを預けにくる保護者にとって便利なのはもちろん、サイズだけを確認しておむつをはかせればいいので、保育園側のオペレーションが楽になるメリットもある。保護者から預かった子どもそれぞれのおむつを出してはかせるのは手間がかかるし、残りの枚数が少ないときには、交換をためらうこともあったという。だが、サブスクにすることで、サイズごとにおむつを施設で一括管理でき、残り枚数を気にせず使えるようになった。自分たちで保育園を運営していたからこそ思い付いたビジネスアイデアだし、働くママのニーズに非常にフィットするサービスだった。

 結果的に、初年度である2019年の売り上げが数千万円だったが、2年目にはそれが前年対比1200%にまで伸びるという驚異的な成長を実現した。22年4月末時点で2030を超える施設が導入済みだという。今も勢いよく業績を伸ばし続けており、関西の有望なスタートアップを地域ぐるみで支援する事業「J-Startup KANSAI」にも選ばれて、注目を集める企業となっている。

 個性的で、ある種アウトローで、本当にやりたいことを破天荒にやり切っていく上野くんは、大阪の起業家らしいなと思う。「ママの活躍を応援する」という一本芯が通っており、そのために自分たちは何ができるかをひたすら考えて形にしてきたからこそ、事業成長が成し遂げられているのだろう。とても魅力的な起業家であるし、彼の率いるBABY JOBはもっと多くの人に知られてほしい、すてきな会社だ。

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