関西の経営者の中には時折、「吉本興業でお笑い芸人をやる方が向いているんじゃないか」と思うほどの人がいる。話が面白くて、ついつい引き込まれてしまい、最終的にはその人のワールドに飲み込まれてしまうような。「またあいつに会いたい」と思うような。

 ただ、そうした面白い経営者たちの中には、ある程度事業が成功して売り上げや利益が立つと満足してしまう人も多い。大阪の繁華街である北新地で高い酒を飲んだり、高級グルメに舌鼓を打ったり、いい家に住んだり、いい車に乗ったり……。もちろん、それも1つの経営者人生なので否定はしない。本人が幸せならいいだろう。ただ、そこで甘んじずにもう一皮むけて、一段上の世界に目を向ける起業家もいる。今回紹介するレスタス(大阪市)の大脇晋社長も、その中の1人だ。

レスタスの大脇晋社長
レスタスの大脇晋社長

 レスタスは「名入れカレンダー」を製造・販売する。企業のノベルティーとして展示会で配られたり、年末年始に取引先から渡されたりした経験のある人も多いだろう。決して新しい存在ではない領域だが、レスタスが歴史ある企業なのかというとそうでもない。

 2011年創業で、スタートアップとして名入れカレンダーEC(電子商取引)事業を立ち上げ、成功を収めたのだ。スマホで予定を管理する人が多い今、カレンダーの需要が過去に比べて高まっているとは考えにくい。なぜ成功できたのか。そのからくりを知る前に、彼の経歴を見てみよう。

 彼のキャリアは、ユニ・チャームからスタートした。ユニ・チャームのおむつをはいて最終面接に臨み、終わり際にズボンを脱いで「僕は御社の精神を愛しています!」と言ったため、人事担当者にこっぴどく叱られたという逸話の持ち主だ。

 入社後はドラッグストアを回って、ひたむきにリテール営業活動を行い、新人として高い評価を得るなど順調にキャリアを積んでいた。しかし、リクルートに就職した同級生と再会したときに、彼らが日ごろから経営者と商談をしていると聞き、そのフィールドに憧れ、24歳ごろリクルートに転職を決める。移ってからも、その巧みな話術を生かして、新卒採用サービス「リクナビ」のトップセールスとして活躍することになるのだが、彼の営業スタイルは同僚らとは一線を画すものだった。

 同僚たちは採用部門の役職者を相手に予算内での商談を進めた。特にリクルートの営業パーソンは若手が多く、対社長との商談を恐れ、躊躇(ちゅうちょ)する人が多かった。

 しかし、彼は中小企業の社長案件を好んで担当した。予算内で商談をするのではなく、当該企業の中長期的な事業計画をヒアリングし、その事業計画にある売り上げ目標を達成するための組織づくり・人員体制などに具体的に落とし込みプレゼンした。人員採用の提案ではなく、事業計画達成のための経営戦略として社長に提案することで、予算度外視の商談を成約するのだ。

 5年半で600人を超える経営者と話したという。リクルートの大阪の支社で、対社長案件といえば大脇というポジションを確立し、桁違いの額の案件をばんばん受注した。従業員100人足らずの新規企業から5000万円近い受注額を記録したこともあるという。おそらくこの記録はいまだ破られていないのではなかろうか。結果、MVPを3回受賞して「殿堂入り」を果たすなど、輝かしい成果を残した。

 ただ、20代後半を迎えて彼は考えた。