14億人に厳しく対応せざるを得ない

 日本の報道でも、過去の封じ込めの成功体験や、政府のメンツの問題で、いまさら軌道修正できないなどと指摘されている。政府が発表したように、中国は高齢者が多く、医療資源も不足していることから、大規模感染が、大量の重症者や死者の発生につながることを懸念しているともいわれる。農村の医療も脆弱で、都市部で感染爆発すれば、出稼ぎ労働者の帰省などを介して感染が拡大、収拾不能になる、という問題も指摘されている。

 政府の公式見解とは別に、政府がゼロコロナをやめない理由について、複数の中国人に意見を聞いてみた。上海在住の40代の中国人はこんな意見を語った。

 「ロックダウンによって、高度に発展した上海でさえ、人々のコロナに対する意識や対策、考え方、常識などはあまりにもバラバラだと感じました。マンションごとに共同で食料を購入する制度を利用する際も、自分勝手な意見ばかりいう人が多くて、あきれました。もちろん助け合いも多いのですが、それはある程度以上のレベルの人によるものです」

 「先日、北京では、公衆トイレから感染が広がったという報道がありましたが、公衆衛生の認識もバラバラです。コロナ下でも、手も洗わない人が大勢いる。正しい感染対策を理解できない人もいるし、自分と身内、親しい友人以外はどうでもいいと思っている人もいる。こんな状態では、政府は(対応を)緩和できず、コスト高でも、14億の人すべてに厳しく対応せざるを得ない。でも、この“本音”は、(中国)社会が未熟だと認めることになるので、外国の人にはいいたくないでしょう。

 私は別に政府をかばっているわけではありませんが、これがこの国のレベル、現実なのだから厳しくやるより仕方がない、という気持ちです。もちろん、それにつき合わされる私たち、中間層以上の人たちはたまったものではないのですが……。どうしても嫌ならば、この国を出て移住するしかありません」

 杭州市に住む50代の中国人も「コロナと共存するには、国民全体にある程度の民度や知識があることが前提。残念ながら、まだこの国はそのレベルに達していない」と話す。

 「個人的にはゼロコロナには反対ですし、無意味だと思います。日本のように、命令されなくても自らマスクをつけ、周囲に迷惑を掛けないという意識が強い国なら、ある程度コロナと共存していけるでしょうが、この国では難しい。国内の著名な学者や医師がすでに指摘しているように、徐々にコロナと共存する道筋を見つけていくべきだと思うのですが……。

 今の段階で対策を緩めたら、あっという間に、全国規模で数千万人、いや数億人が感染するかもしれません。そうなったら国内だけでなく、世界に与える影響も甚大です。政府はそれを恐れているのでしょう。だから、本当はゼロコロナをやめたいけれど、やめられない。そして、やめなくても批判される。政府はジレンマに苛(さいな)まれていると思います」

 この人の意見を聞いて、2021年にアメリカ在住の中国人が語った、こんな意見を思い出した。

 「もし中国でアメリカと同じくらいの人がコロナに感染し、死者が出たら、暴動が起きて大混乱に陥るでしょうし、その刃は政府に向かうでしょう。国家が崩壊するほどの危機に直面すると思います。中国が崩壊したら、世界も崩壊します。アメリカ人だって、もし中国国内で感染爆発が起これば、きっと中国をこれまで以上に猛烈に批判するでしょう。中国でコロナが収まっていても海外では別に誰も評価してくれないけれど、感染拡大したら、また袋だたきにされるのではないでしょうか」

(写真:kovop58/Shutterstock.com)
(写真:kovop58/Shutterstock.com)

日経BOOKプラス 2022年5月13日付の記事を転載]

日経プレミアシリーズ『いま中国人は中国をこう見る

本音から本質を浮き彫りに

 経済・通商問題、人権弾圧、覇権主義……。米国との対立だけでなく世界中から厳しい視線を注がれている中国。中国リスクが高まるとされる今の状況を、中国人は本音ではどう思っているのか。コロナ禍だからこそ見える中国社会の変化と中国人の本音を、数多くのインタビューを基に構成、解説する。

中島恵(著) 日本経済新聞出版 990円(税込み)

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。