会議室の部屋番号は直前まで決まらない
別の中国人は、自身が抱えている、小さいけれど、本人にとっては大きないら立ちにつながる「チャイナリスク」について紹介してくれた。
その中国人は以前、日本に住んでいた経験がある。現在は中国のある学校で働いている
が、その人にとっての「チャイナリスク」とは、職員の会議の部屋番号が直前にならないと決まらない、という話だ。
「学校が大きいので会議室はたくさんあるのですが、いつも会議の10分前くらいにならないと、部屋番号が知らされないのです。1時間前に事務へ問い合わせても『まだわかりません』というばかり。日本人が聞いたらあきれる話です。
会議に限りませんが、中国では何でもトップダウンで、上が決めないと物事が進まない。
大きな学校も大企業も、物事の進め方は小さな学習塾レベルか、あるいは中小企業レベルです。オンライン会議もそうです。コロナでオンライン会議が増えたのですが、日曜日の朝10時に突然『今日の午後1時から職員のオンライン会議をやります』と連絡が入ったりします。
それでも、会議の3時間前に連絡してくるときは、まだいいほうです。少しは会議の準備ができますから。別の予定があるときには、仕方がないので、外でスマホをつないで会議に出ます。それでは落ち着きませんが、文句はいわれません。会議に出さえすればいいのです。こんな行き当たりばったりのやり方は非効率だし、まさに中国式です。
我慢できる範囲内ならば、仕方がないと思ってあきらめるしかない。自分の場合は事務部門に改革してほしいといいたい気持ちをぐっと抑えて、ひたすら我慢します。事務部門は私たちの人事権も握っているから何もいえないのです。
それに、日本など海外に住んだ経験のない人は、これが普通の進め方だと思っているので別にイライラしないと思います。中国でも海外企業との接点が多い一部の大企業は徐々に洗練されたやり方に変わってきていると思いますが、全体的にはまだまだです。
コロナによって海外との交流が減ったこともあり、中国的スタンダードのままで別に問題ないのだ、といった開き直る雰囲気も感じます。中国の組織が成熟化し、国際的なスタイルになるまでには、まだ相当な時間がかかると思います」
彼はそう話すと、深いため息をついた。

本音から本質を浮き彫りに
経済・通商問題、人権弾圧、覇権主義……。米国との対立だけでなく世界中から厳しい視線を注がれている中国。中国リスクが高まるとされる今の状況を、中国人は本音ではどう思っているのか。コロナ禍だからこそ見える中国社会の変化と中国人の本音を、数多くのインタビューを基に構成、解説する。
中島恵(著) 日本経済新聞出版 990円(税込み)
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