チャイナリスクで最も困っているのは中国人

 別の中国人数人にも、日本で「チャイナリスク」といわれる現状について尋ねてみたが、こうした質問をすると皆、表情は暗くなった。ある中国人はこう答える。

 「中国自身がブラックボックスでよくわからない、というのがあると思います。いろいろな意思決定に対して、明白な基準がないことは、外から見て確かに不安だろうとは思います。

 たとえばコロナの隔離対策でも、地方(省や市)によって全部やり方が異なります。しかも、政策はコロコロ変わる。少しはシステマティックになってきているし、ルールの明文化も進んでいます。法律も作っています。でも、基本的にはまだあまり変わらない。

 ただ、中国で起きているあらゆることについて、全部まとめて『チャイナリスク』と呼ぶことについては、日本人の偏見も含まれているのではないかと思います。

 2012年に起きた反日デモ。今でもあのデモの記憶が蘇り、中国と関わることはリスクだと感じる人は少なくないと思います。でも、中国の人口は世界の5分の1。GDPも世界の6分の1。世界で事件や事故が起きても、その5〜6分の1は中国で起きている。そのこともわかってほしいです」

 思いがけない答えも返ってきた。 「チャイナリスクでいちばん困っているのは中国人だ」というのだ。アメリカ在住の中国人はこういう。

 「日本人が指摘する『チャイナリスク』というものは、中国人一人ひとりの身にも現実に起きています。今年(2021年)8月に行政命令で中国中の学習塾が営業できなくなりましたが、これによって仕事を失った私の中国在住の友人は一人や二人ではありません。彼らは何の落ち度もないのに、政府の決定で突然、生活の糧を失ったのです。

 その行政命令が下りる前には官僚と企業トップとの間で何らかの意思疎通があったのかもしれませんが、普通の人々はそれを事前に察知することなどできません。中国人にとっても、ある日突然事件は起きる。他の業界でもそういうチャイナリスクは起きていると思います。

 私が渡米した8年前、中国のそうした洗練されていないやり方は、経済成長とともに徐々に減っていき、透明性が高まったり、明文化されたりして、改善されていくだろうと期待していました。

 ですが、今の中国を外から見ていると、現体制のもとで、むしろ逆の方向に向かっているのではないかと心配しています」

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