AI(人工知能)の進歩は不確実性を克服する決め手となるのか? AIファンドの運用成績は? AIが主導権を握る社会が訪れると何が起こる? リスクと向き合い続ける金融市場のプロ・田渕直也氏の著書『「不確実性」超入門』(日経ビジネス人文庫)から一部抜粋してお届けする。

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AIにできること、できないこと

 前回紹介したルネッサンス・テクノロジーズや類似のクオンツ・ファンドの成功は、コンピュータの処理能力、ビッグデータやオルタナティブ・データ、AIといったものが不確実性への対処で大きな力を発揮しうることを示しているように思われる。

 こうしたテクノロジーの進歩は、ルネッサンスが投資の世界でかつて誰もなしえなかったような成績を収めているように、不確実性を克服する決め手となるのだろうか。

 おそらくその答えはイエスでもあり、ノーでもある。

 まず思い起こすべきは、ルネッサンスが莫大な相場情報をコンピュータに処理させることで生み出しているものは、非常に限定的な将来予測であるという点である。

 我々がもっとも知りたがるような、たとえば今後株価は上がるのか下がるのかといった単純で断定的な予測に焦点を合わせているわけではないのだ。

 そのかわりに焦点を当てているのは、さまざまなデータ間の相関関係を把握することと確率計算である。

 たとえば、同じ自動車メーカーであるトヨタ株とホンダ株の値動きには何らかの相関関係があるはずである。

 だが短期的には、特定投資家の大量売買などの特殊な要因によってこの関係が崩れ、トヨタ株が相対的に高くなって、ホンダ株は相対的に低いというような状態になることがある。

 この状態をもたらした要因が消えてなくなれば、両者の株価は以前の関係に戻っていく可能性が高い。だから、トヨタ株を空売りし、ホンダ株を買う。

 こうした取引には、株式市場全体が上がるか下がるかといった単純な予測は介在していない。
 ただ、何らかの要因で一時的にゆがめられた相関関係は、その要因が消えれば元に戻っていくはずだというようなことを予測しているにすぎないのである。

 しかも、本当にその要因がすぐ消えるのか、消えたとして本当に元の関係に戻るのか、断定的な予測はできないので、「過去の値動きに照らしてその確率は55%」という具合に判断する。

 我々が一般にイメージする将来予測とはかなり種類の異なるものなのだ。

 もちろん実際にルネッサンスが行っているのはもっと複雑で高度な判断であろうが、基本的には単純な将来予測ではなく、確率統計処理に基づいた相関関係や確率の計算を行っているという点はとても重要である。

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