サウナを観光振興や街おこしの起爆剤にする動きが盛んだ。自然の景観を生かし、地元の風物を感じられるサウナ体験など特色を打ち出す。サウナを熱源に地域経済は「ととのう」か。

■連載予定 ※内容は予告なく変更する可能性もあります
(1)コロナ禍で苦境の宴会場、「オマケ」のサウナに集う若者が救う
(2)「ととのう」ってどういう状態? 今どきのサウナ基礎知識
(3)バスもテントも、「SaaS」でサウナもモバイルの時代
(4)下町銭湯をリバイバル、元プロレスラーが熱波 個性派サウナで蘇る
(5)JINSは本社に設置へ ビジネスを研ぎ澄ますサウナ、5つの効能
(6)氷結湖や鍾乳洞を水風呂に サウナで街おこし 地域経済はととのうか(今回)
(7)Zホールディングス川邊社長「あなたはサウナなしで生きていけるほど幸せか」
(8)サウナ付きホテルの雄ドーミーイン、「宿泊外」にこそ商機あり
(9)「サウナ大国」フィンランドの文化に学ぶ(フィンランド紀行1)
(10)営業利益率26% サウナストーブ世界首位企業の実力(フィンランド紀行2)
(11)フィンランドのサウナストーブ世界首位「ハルビア」CEOインタビュー
(12)憧れの自宅サウナ、実際の費用はおいくら?
(13)おじさんの憩いの場、新橋「アスティル」の今
(14)日本のサウナ業界の先導役METOSが説く「文化が市場をつくる」
(15)サウニスト・小説家 浅田次郎氏「サウナは人生の『余白』をつくる」

 「クォー!」。真冬の氷結した湖にサウナの愛好家である「サウナー」たちの歓声が響く。北海道の帯広駅から車で50分。新得町のくったり湖の湖畔にたたずむレイク・インでは、フィンランド発祥のサウナの楽しみ方「アヴァント」を体験する人たちでにぎわう。

 湖畔のサウナ室から約20m先にあるのは天然の水風呂だ。凍り付いた 湖を縦2m、横1.5mの四角形に切り出して穴を作る。水温は1~3月だと1度以下にもなり、70~90度のサウナで汗をかいた後にドボン。その後は遮るものがない大自然のど真ん中の氷上で外気浴を堪能できる。知人と訪れた29歳の男性会社員は、「水風呂で冷凍されかけたが、その分 外気浴は極上」と白い歯を見せた。

湖の湖畔にたたずむレイク・インのサウナ(写真=箕浦伸雄)
湖の湖畔にたたずむレイク・インのサウナ(写真=箕浦伸雄)

地産地消のサウナ体験

 手掛けたのは道内でホテル5施設を運営するホテル十勝屋の後藤陽介社長だ。サウナで観光振興を目指そうと2020年4月に設立された十勝サウナ協議会の会長も務める。後藤社長は「十勝地方はこれまで札幌や旭川から道東へ向かう通過点に過ぎなかった。サウナ資源を生かして滞在型に変えれば経済効果は高まるはず」と期待を込める。

レイク・インの「アヴァント」はサウナの後、凍った湖面をくり抜いた「天然の水風呂」に入り、その後氷上でくつろぐのが醍醐味(写真=箕浦伸雄)
レイク・インの「アヴァント」はサウナの後、凍った湖面をくり抜いた「天然の水風呂」に入り、その後氷上でくつろぐのが醍醐味(写真=箕浦伸雄)

 協議会は当初、10の企業・団体で発足。今では18にまで増え、フィンランド式の「ロウリュ」が楽しめる9 施設が参画する。十勝産のシラカバの木を使ったサウナ室、地元でとれる麦飯石を使ったサウナストーン、健康増進のため体に当てて使うヴィヒタ(シラカバの枝葉)と地産地消のサウナ体験にこだわる。

 20年の秋冬には3施設を2500円で回れて、1施設当たり実質30~50 %安くなる日帰り入浴パスポートを販売。1000枚の発行に対して800枚が売れた。21年分は4施設で3000円に設定したが、ほぼ同じ売り上げを確保できたという。十勝地方の在住者による購買が7割を占めるなど、意外な需要も掘り起こした。

 そもそも観光にサウナを取り入れたきっかけは、森のスパリゾート北海道ホテル(帯広市)を経営する林克彦氏との雑談だった。19年、フィンランド のサウナツアーに参加した林氏は、ホスピタリティーあふれるサウナ文化に感動。自然の風景も帯広と似ており、話を聞いた後藤氏は「やる価値はある」とホテルの浴室にサウナを併設した。  

 新型コロナウイルス禍で宿泊客数は伸び悩むも、日帰り入浴の利用者数は19年比2.5~3倍に増加。稼働率は81%とコロナ前の平均から12 ポイント落ちたが「間違いなくサウナが下支え役になった」(後藤社長)。  

 「点から面へ広げれば十勝を『サウナ共和国』とうたえるようになる」。19年、林氏が発起人となり仲間づくりを始めた。当初は周囲から「勝手に盛り上がっているだけ」と白い目で見られたが、サウナ事業の収支計画や十勝ならではのサウナツーリズムを地元の観光事業者に説いて回り、協賛の輪を広げた。  

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