古戦場のサウナ室はいわゆる「ドライサウナ」。ストーブも水をかけられない仕様だった。ただ、近年はストーブの上で熱せられた石に水をかけ、蒸気を発生させるサウナの入浴法「ロウリュ」が人気を集めている。湿度が上がり、体感温度も高まるロウリュを取り入れられれば古戦場のサウナの「高温」という武器もさらに磨きをかけられる。

 水をかけても故障しないサウナストーブに更新する手もあったが、更新費用は苦境にあえぐ古戦場には重くのしかかる。そんな中、サウナストーブの製造業者から「推奨はしないが」と前置きされながら、改造方法を教えられた。簡単に言えば、サウナストーブの上に鉄板を置き、その上に石を置くという手法だ。知り合いの鉄板加工業者に依頼し、専用の鉄板を作製してもらうなど、試行錯誤しながらロウリュができるストーブに改造していった。

費用をかけず、サウナを「ととのえる」

 完成したのはサウナに活路を見いだし始めて2カ月もたたない11月中旬。するとなぜかすぐに、開店待ちの客も出始めるなど人気に火が付き始めた。

 手応えを得た浅野社長は見よう見まね、かつ費用をかけずにサウナを最大限楽しめる設備を整えていった。かつて、露天風呂を設置していたスペースには雑草が生い茂り、目隠しのため大浴場と屋外を仕切る窓には黒いフィルムが貼られていた。インターネットで検索しながら手作業でそのフィルムを剥がし、終わった後は雑草をこれまた自力で抜いていく。きれいになった屋外スペースには屋根やアウトドア用のリクライニングチェアを設け、外気浴用に開放した。

 サウナ室内には高温の蒸気をより一層楽しむための風「熱波」を発生させるうちわを設ける。熱に強い焼き鳥用のもので代用した。冬季は外気浴スペースにビニールプールを設けた。一関の冬は水面(みなも)が凍るほどの寒さだが、その外気で冷えたプールはサウナ好きにとって格好の水風呂代わりになる。熱気を浴び終えた客はこぞって氷を備え付けのトンカチで割り、プールに飛び込む。

 サウナグッズの製造販売も始める。頭部と髪を熱から守る「サウナハット」を浅野社長自らデザインし、知り合いのジーンズメーカーに製造を依頼。特徴は熱による肌の乾燥、そしてロウリュによる喉へのダメージを和らげるためのタオルを引っかけられる切り込みを入れたことだ。20年12月にネット上で販売を始めると3960円(税込み)と決して安くはない価格ながら、用意していた100個が1カ月ほどで売り切れた。今では一関市のふるさと納税の返礼品としてもサウナハットをはじめとする古戦場のグッズは人気だ。

 いつしか温浴施設の客数は、サウナに力を入れ始める前と比べ2倍ほどに増えていた。温浴施設は費用の大半が固定費だ。損益分岐点売上高を超えれば、あとは客が増えれば増えるほど、その入浴料収入は利益となる。温浴施設の売り上げはもともと比率が低いだけに、2倍に増えても増収幅は限られるが、その利益率は大幅に高まった。

 そしてサウナの楽しみの一つとして、入浴後の食事「サ飯」もあるが、古戦場はもともと飲食部門が強いだけに料理の質の高さにも定評がある。カレーライスなどの食事と入浴がセットで1200円とお得なプランを押し出すほか、ピリ辛のふりかけを混ぜ込んだ「サウナ握り」、サウナ施設で人気の「オロナミンC」と「ポカリスエット」を混ぜたドリンク「オロポ」にソフトクリームを乗せた「クリームオロポ」などといった新商品も考案。サウナの人気の高まりとともに、サウナ目当ての客による飲食部門の売り上げも増えていった。

 「まさかサウナがうちを救ってくれるなんてね」。浅野社長は笑う。当初、飲食部門がメインの古戦場商事の中には、社長が向こう見ずな行動力でサウナを整備していく姿を冷ややかな目で見る社員も多かったが、目に見えて活気を取り戻しつつある今では、全社一体となってサウナの魅力向上に努めている。

全国行脚に使った軽バンは廃車に。各所で書き込まれた古戦場や各地を回った2人への応援メッセージが残る
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 「やることがない。サウナグッズを携えて全国を回りたい」。21年、宴会の開催数が減少し、業務が大幅に減った厨房で働く若手男性社員2人は自腹で100万円分、古戦場のサウナグッズを購入し、全国のサウナ施設などで売って回りたいと浅野社長に直訴した。休業扱いとなった2人は出前に使っていた軽バンを使って旅へ。施設内でのグッズ販売は断られることも少なくなかったが、根気よく全国の温浴施設を回った。3カ月で、グッズの売り上げは280万円にも上った。

 2人は全国行脚の中で、有名施設の職員からサウナ室内で熱波を起こす技術を学んでいった。彼らは同僚の女性社員や高齢のパート社員にもその技術を伝授。不定期で開催される「熱波師」たちによるパフォーマンスは古戦場きっての名物となった。人気の高まりを受け、古戦場ではサウナの増設計画が進行。地元産の薬草をサウナストーブでいぶして香りを出すといったしかけを用意している。

 なぜ、浅野社長の行動力がすぐに集客に結びついたのか。その答えはサウナの客層の変化に隠されている。

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