予測不可能な事態が次々と発生する世界で、どうすれば勝ち残れるのか。「今までの延長線上では非常に厳しい」。強い危機感を持ち、既存事業とは異なる新たなビジネスモデルの創出に動き始めた企業がある。日用品国内最大手の花王だ。変わり続けることで運命を切り開こうとする花王の選択を見てみよう。

■掲載予定 ※内容は予告なく変更する場合があります
(1)日用品に迫る三重苦 花王が探し始めた「もう一つ」の成長エンジン(今回)
(2)400年企業「綿半」 地元・長野のために変わり続ける
(3)米GE初の社外出身カルプCEO、「3分割はイージーな決断だった」
(4)旭化成の「異業種連合」秘訣はコネクトと新陳代謝

川崎市にある花王の研究拠点。皮脂の遺伝情報から病気の予兆を調べる。こうした分析技術を駆使して、メディカル(治療・診断)など新規事業を創出する(写真:菊池一郎)
川崎市にある花王の研究拠点。皮脂の遺伝情報から病気の予兆を調べる。こうした分析技術を駆使して、メディカル(治療・診断)など新規事業を創出する(写真:菊池一郎)

 「もう一つの花王を起業する」。この壮大な目標に向かって、腕利きの研究者や各事業部門のエースら約100人が新規事業開発に取り組んでいる。プロジェクト名は「Another Kao(アナザー花王)」。構想の発案者は2021年1月に就任した長谷部佳宏社長である。

 花王の創業は1887年。せっけんに始まり、ヘアケアやボディーケア、食器用洗剤やおむつなど「日用品」を主力に135年の歴史を紡いできた。だが長谷部社長は「今の事業だけではいずれ頭打ちになる」と危機感を抱く。

「他社とも積極的に協業する」と、花王の長谷部佳宏社長は意欲的だ
「他社とも積極的に協業する」と、花王の長谷部佳宏社長は意欲的だ

 「アナザー花王で目指すのは、過去とは違うビジネスモデルの構築だ。新しいエンジンが将来のために必要だ」。こうした思いから、これまで踏み込まなかったメディカル(治療・診断)領域への参入を目指す。メディカル分野は各社が相次ぎ参入する競争が激しい市場だ。単なる医薬品開発で、後発組の花王が正面突破するのは難しい。そこで活用するのが日用品で培った肌表面や体内部までの人体計測技術だ。約3000人の研究員とAI(人工知能)の力を融合させ独自領域を開拓する。

 切り込み役は、冒頭で述べた精鋭メンバーの一部で構成する「デジタル事業創造部」だ。AI開発スタートアップのプリファード・ネットワークス(東京・千代田)と共同で「仮想人体生成モデル」の開発に取り組んでいる。

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