この連載「子どもたちからのソツロン」は、ある地方国立大学の学生さんに、「日経ビジネス電子版に、読者の皆さんの役に立つコラムを書く」というお題で、テーマ出しから執筆、見出し、シカケ(写真など)も込みで、半年間で1本の記事を書いてもらう、というものです。基本的に週イチで授業1コマを使い、編集Yとゴリゴリ打ち合わせや文章のリライトなどをやってもらうので、そこそこ負荷はかかります。海外留学や就活などでリタイア続出となった今シーズン(2022年9月~23年3月)、唯一完成稿までたどりついたのが、今回ご紹介するMさんでした。
さまざまなテーマがMさんから出た中で、お願いしたのは彼女の「推し活」についてです。なお、Mさんは自分のファン活動を「オタ(オタク)活」と言っており、「どちらでも特にこだわりはない」とのことでしたので、本記事でも、オタ活=推し活、として使わせていただきます。
さて、日経ビジネス電子版読者の中心を占める中年男性(もちろん私も)が、なかなか理解しにくい概念の一つが「推し」ではないでしょうか。我々の若い時代にも「アイドル」は男女ともに存在し、同じく「ファン」もいましたが、今の「推し」を愛でる活動、特に、目に付く限りでは、ですが、女性の推し活は、我々の世代のファン活動とは明らかに違います。
「アイドルを自分のものにしたい」感覚の薄さと、「宗教か?!」と思うほどの尽くしっぷり。そして何より、彼女たちは生活の時間の多くを推しにささげつつ、自分の人生を前向きに、大いにエンジョイしている。その姿は実に微笑ましくも心地よい。推し活をテーマにしたマンガ『マキとマミ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~』(町田粥作)や『腐女子のつづ井さん』(つづ井作)などで、主人公の彼女たちの推し活の暴走っぷりをゲラゲラ笑いながら読んでいたとき、ふと気が付きました。
ジャニーズ事務所所属のある男性アイドルを「推し」ているMさんの毎日も、とってもキラキラと輝いているようです。だけど、そんな推しがある日、大人の事情なのか何なのか、自分の前から消えてしまう事態がやってきました。さあ、どうするMさん。
突っ込みたくなる気持ちは同世代として大いに分かりますが、まずは心を真っ白にして、彼女のオタ活、推し活をのぞいてみてください。
皆さま、初めまして。私は大学2年生のMと申します。実家暮らしをしており、一家は、家事・子育て・仕事をこなすスーパーウーマンの母、何事にも一生懸命で勤勉な妹と、私の3人家族です。まるで三姉妹のような私たちに共通するのは、ジャニオタ(ジャニーズのオタク)であることです。
いきなりですが、自分の推しについての想いを述べますと
「私の毎日、推しに生かされているなあ」
となります。
自立し、大人にならなければいけない時期に差し掛かっている私の、生活、そして心の中心にあるのは、好きなアイドルの存在。
既にあきれ返っている方も多いと思います。それでも「この人に出会う前の自分は、心の張りをどうやってつくっていたのだろうか」と、自分に尋ねてもはっきりと思い出せないくらい、推しの存在は私の生活の一部となっているのです。
「Mさんの推しに対する思い、というのは、端的に言って、そのアイドルとお付き合いできますように、とか、そういうことですか?」
と、オンライン授業で編集Yさんに聞かれたのですが、私はその質問自体にびっくりしました。
私に限らないと思いますが、推しの相手と付き合いたい、独占したい、という気持ちは、自分の心の中には本当に見当たりません。「自分が学生時代のアイドルファンって、かなうものなら結婚したい、せめて自分だけを見てくれたら、くらいの気持ちでアイドルを見ていたと思うんですが……だったら、Mさんの『推す』ってどういう気持ちなのか、それを読者の皆さんに説明してみませんか」ということで、この原稿を書かせていただくことになりました。
「推す」ってどういう気持ちなのか
気恥ずかしいのですが、お仕事ということで、自分が「推し」について思っていることを正直に書きます。
私は、「推す」とは「大好きな推しが幸せでいられますように」と願うことではないか、と思います。
そして、彼の幸せを祈る気持ちが、自分の毎日の生活の中に自然と溶け込んでしまった結果が、「推し活」なのだと思います。自分は「オタ活」と呼んでいますので、以下、そうさせていただきます。
推しの幸せを祈り、彼の行動を見守る「オタ活」は、多岐に渡ります。グッズ集めやイベント、推しの布教活動、ただその人を思っていることでさえもオタ活なのです。私のオタ活を順番にご説明しましょう。
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