(写真:Shutterstock)
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 2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの全面侵攻は、第2次世界大戦以降で最大の武力紛争となる可能性がある。この日を境に冷戦以降、所与とされてきた一定の勢力均衡と国際秩序が過去のものとなることだろう。ロシア、中国のような権威主義国家と西側の自由民主主義陣営のデカップリングの進行も想定される。こうした中、改めてビジネスの世界で「経済安全保障」という概念の重要性が高まりつつある。

 経済安全保障という言葉は2021年からよく聞かれるようになってきたが、その意味は必ずしも明確ではなかった。こうした定義が曖昧なキーワードが登場すると、企業の経営層から経営企画部や事業部に対して「経済安全保障というのはうちにはどんな影響があるんだ?」、「経済安全保障関係で何か新しいビジネスは考えられるのか?」といった大きな問いが投げられるものである。これは見慣れた風景であり、かつては「うちのAI(人工知能)活用はどうなっている?」や「ESG(環境・社会・企業統治)関連で何か考えろ」という内容が経営層から降りてきていた。

 近年のビジネストレンドとして、テクノロジー、特にデジタル領域が関連しないものはなく、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という名目でテクノロジーの導入が進んでいる。DXは業務改善のための単なるシステム導入ではなく、既存事業を非連続に変えること、企業にとって新しい探索領域で事業創造を行うことである。

 「経済安全保障」領域においてもサイバーセキュリティー、半導体といったコア技術のサプライチェーン確保など、テクノロジーが重要な要素となっており、広く企業に関係するのもこの領域である。

経済安全保障に関わる分析は企業に必須となる

 筆者が知る限り、日本の大企業で経済安全保障の専門チームを常設して、日々のリスク管理を行っている企業はまだほとんどない。しかしながら今後は企業経営者も、株主や取引先といったステークホルダーからその対応を問われることが増えるだろう。

 2022年2月25日には経済安全保障推進法案を政府が閣議決定した。何よりも今回のロシアによるウクライナ侵攻は、サプライチェーンの分断やエネルギー供給の停止、海外事業からの突然の撤退が現実にあり得るリスクであることを改めて示した。企業はリスク対応のため、経済安全保障に関わる分析は必須と認識すべきだろう。

 ただ「安全保障」という、一般的に民間企業が考慮することが少ない分野について、「経済安全保障について調べておいてほしい」という指示はあっても、すぐに動けるスタッフは多くはないだろう。そこで本稿では3回にわたって、「経済安全保障」について企業が知っておくべきこと、これからすべきことについて解説する。

 まず、なぜ今になって経済安全保障が叫ばれるようになったのか、国際情勢や地政学を含む背景や法規制を中心とした動きを解説した上で、企業が具体的にすべき情報収集とリスク管理に触れていきたい。ビジネスパーソンの方々が検討される社内での活動の一助となれば幸いである。

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