『日経ビジネス』は経営者を中心に優れたリーダーの決断や哲学、生き方に迫る多数の記事を掲載してきた。その中から編集部おすすめの記事をセレクトして復刻する。第13回はホテルチェーン、アパグループの元谷外志雄氏に迫った2003年の記事を取り上げる。

(注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。

2003年3月17日号より

ホテル、マンションの用地買収から設計までこなすワンマン経営者。テレビでも有名な夫人を広告塔に、二人三脚で全国展開を進める。地価と金利が低いデフレ時代は勝機と、大手企業と真っ向勝負する。

(写真:水野 竜也)
(写真:水野 竜也)
PROFILE

元谷 外志雄[もとや・としお]氏
1943年6月3日石川県生まれ。59歳。62年、高校を卒業後、小松信用金庫(現・北陸信用金庫)に入庫。71年にアパの前身である信金開発を設立し注文住宅事業を開始。77年に分譲マンション事業、84年にホテル事業に参入。2002年に本社と自宅を東京に移し、首都圏市場に本格進出した。

 「うちの会社は設立してから31年間、ただの一度も赤字を出したことがない。350億円もの税金を払って社会に貢献してきた」

 今年2月20日、東京都町田市に建設予定のマンション「APA(アパ)ガーデンパレス多摩境」のモデルルームの起工式。取引先や工事関係者など数十人を前に、アパグループ代表の元谷外志雄は壇上でこう言って胸を張った。

 アパの経営者と言えば、元谷の妻、芙美子が有名である。アパグループはアパ建設、アパマンションなど13社からなる。そのうちの1社、アパホテルの社長である芙美子はトレードマークの大きな帽子と派手な服装、持ち前の明るいキャラクターでテレビ番組や雑誌にもよく登場し、『私が社長です』という著書もある。広告塔の芙美子の陰に隠れる形だが、実際に実務を取り仕切るのが、グループ12社の社長を務める元谷だ。

 アパの2002年2月期連結決算での売上高は403億円、経常利益が39億円。そのうちホテル事業の売上高は108億円。最近ではホテル事業に軸足を移しつつあるが、本業は分譲マンションのデベロッパーである。

 2002年、アパは東京・赤坂に自社ビルを購入し、本拠地としてきた金沢市から本社を移した。マンション、ホテルの両事業で首都圏を攻略するためだ。

 多摩境の物件は、本社を移してから3件目の都内のマンションとなる。これからまさに大手デベロッパーとの競争が待ち構えるが、元谷は「用地買収から設計、建築、販売、広告宣伝まですべて自社でやっているから、圧倒的に低いコストでマンションが販売できる。競争が激しくても負けるはずがない」と自信を見せる。

 アパガーデンパレス多摩境の起工式の1年前、元谷はこの場所を訪れている。京王電鉄相模原線の多摩境駅前に、東京都が売りに出している土地があると聞き、入札に参加すべきかどうか見定めるためだ。

すべての土地を自分で視察

 元谷は土地の視察には自分の愛車でやってくる。自ら運転し、周囲の店舗や道路事情、人通りなどを確かめる。

 「駅に隣接する立地は申し分ない。少し窪地になっているのでほかのデベロッパーは敬遠しているのだろう」

 まだ何もないその土地を前に、元谷はマンションの完成予想図を思い浮かべる。何階建てにどれだけの戸数が入るか、駐車場は何台分できるか。頭の中にイメージし、必要な投資額を弾き出す。そうして、妥当な土地の購入額を逆算するのだ。

 「ここならいける。買いだ」

 元谷は、この土地を買うことを即決した。自分が思い描いたマンションなら近所で計画されている新築マンションにも勝てるし、十分に利益が出ると確信したからだ。

 あとは、温泉が湧き出る土地かどうかを調査するだけ。アパが最近開発するマンションの多くは、全戸に天然温泉を引いている。元谷は、地元北陸などで実績のある「温泉つきマンション」を首都圏でも武器にしようと考えている。多摩境でも、高い確率で温泉が湧くことを確認したうえで入札に参加した。

 「世界中に同じ土地は2つと存在しない。それぞれに、最も適した活用法がある。これまで開発した500件近い物件について、自分が現場を見ないで買ったものはない」

 元谷は自他ともに認めるワンマン経営者だ。購入する土地の選定に始まり、マンションやホテルの設計から広告チラシのデザインや色使いに至るまで、すべて自分で決める。

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