だが佐藤はめげなかった。自ら同協会の事務局を訪ね、論文を書くポイントを確認したのだ。熱意のかいあって、事務局から渡されたサンプルを参考に書き直した論文は、同協会の審査を通って工学教育に掲載された。
論文の執筆に当たり、佐藤は博士課程2年目の2008年、工学部物質化学工学科2年生の31人に対して、自らの教育手法を使った講義を実施している。その中で彼らに自分たちの人生の目標や行動計画を立ててもらった。
この時、せっかく大学に入ったにもかかわらず、人生に何の目標も持っていない学生が多いことに驚く半面、自身の教育手法がやはり役に立つという手応えを感じ取ったという。
「2年生の時にこの講義を受けた学生と受けていない学生が来春に卒業する。その時の成績を比べれば、顕著な差が生じているはずだ」。指導教官の高橋もこう見る。

今年3月に博士号を取得した佐藤は、博士号取得の最高齢記録をギネスブックに申請した。“博士”という肩書は早くも威力を発揮している。博士論文が国内だけでなく韓国やポーランド、ブルガリアといった海外の研究者からも注目され、「優れた教育手法」と認められたのだ。
特に韓国海洋大学校のキム・ユンヘ教授とはお互いの研究成果を“合体”し、日本語と韓国語だけでなく中国語や英語でもテキストを作成。同大学校と山形大の支援を受けて、新たなリーダー育成法として世界へ普及を図るプロジェクトを進めている。
さらに佐藤は「自らの教育手法を中心とした学会も作りたい」と意欲を見せる。“教育者”としての佐藤の第2の人生は、博士号の取得によって新たな段階に入った。「敗軍の将」だった佐藤は見事、自らの力で勝者の地位を奪い返した。
=文中敬称略
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