『日経ビジネス』は経営者を中心に優れたリーダーの決断や哲学、生き方に迫る多数の記事を掲載してきた。その中から編集部おすすめの記事をセレクトして復刻する。第15回は、タカラ「リカちゃん」などを生み出した玩具業界のカリスマ、佐藤安太氏に迫った2010年の記事を取り上げる。
(注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。
2010年8月9日号より
旧タカラを創業し、「リカちゃん」などを生み出した玩具業界のカリスマ。引退後は経営者などに経営哲学を教えてきたが、母校の大学院に入学した。80歳を超える高齢でありながら工学博士号の取得に挑んだ思いとは。

今年3月21日。山形県米沢市にある山形大学工学部で行われた学位記授与式。学生たちの中に、親子以上に年の離れた男性の姿があった。
佐藤安太、86歳。玩具メーカーの「タカラ(現タカラトミー)」の創業者でビニール製人形の「だっこちゃん」、「リカちゃん」人形、「人生ゲーム」「チョロQ」など、ロングセラー商品を次々と世に送り出し、「おもちゃの王様」と呼ばれた人物である。
2000年にタカラの経営から退いた後は、中小企業の経営者や地方自治体の職員などを対象に自身の経営哲学を伝授する日々を送ってきた。その佐藤が、83歳になった2007年、母校の山形大学工学部の大学院に入学。理工学研究科ものづくり技術経営学専攻の博士課程で工学博士号の取得に挑んだ。
老いの道楽ではない。この一大決心の根底には、自分の人生を賭した佐藤の並々ならぬ思いがあった。
佐藤は、だっこちゃんのブームが終焉した直後に深刻な経営不振に陥ったタカラを再建。その後に何度か訪れた経営危機もヒット商品の連発で乗り切り、創業当初はビニール製品の加工を手がける“町工場”にすぎなかったタカラを総合玩具メーカーに成長させた。1991年には東京証券取引所第1部への上場も果たした。
だが、このカリスマ創業者の引き際は決して鮮やかなものではなかった。
94年に長男の博久に社長を譲って自らは会長に退いたが、ヒット商品が出なくなって業績が悪化。そして99年、博久が突然辞任。その後を受けて、佐藤は社長に復帰する。
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