『日経ビジネス』は経営者を中心に優れたリーダーの決断や哲学、生き方に迫る多数の記事を掲載してきた。その中から編集部おすすめの記事をセレクトして復刻する。第14回では、ヤッホーブルーイングの井手直行氏に迫った2013年の記事を取り上げる。

(注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。

2013年12月16日号より

30歳まで迷い歩いた人生。たどり着いたのは軽井沢の小さな醸造所だ。「地ビールバブル」を乗り越え、どん底から経営を立て直す。ビールの力を信じ、名物社長は今日も愛するファンに熱く語りかける。

(写真:大高 和康)
(写真:大高 和康)

 「いえーい! てんちょの井手です!」

 11月中旬、東京・永田町のビアレストラン。クラフトビールの製造販売を手がけるヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)が開催した「ファンイベント」に、社長の井手直行(46歳)、通称てんちょ(店長)はいた。

 冒頭から客の熱狂は最高潮に達し、井手がテーブルを回ると歓声がわき起こる。常連の女性客は「彼に会うために来た」と顔を紅潮させる。「ビールは人を笑顔にする。この仕事に携われたことは幸せなこと」と、井手ははにかみながら語った。天職を見つけた、そんな笑顔だ。

 ヤッホーブルーイングは、リゾート施設の運営や再生で知られる星野リゾートの100%子会社で、クラフトビール業界の最大手。クラフトビールとは、大手ビール会社が造るビールと違い、小規模な醸造所で職人が丹精を込めて造るビールのことを言う。ネット通販に加えて、全国のスーパーや大手コンビニエンスストアでも流通している。主力の「よなよなエール」は世界の3大ビール品評会で8年連続の金賞を受賞。愛好者は地元軽井沢だけでなく、日本全国そして海外にまで広がっている。

 今年10月には、同社初の公式ビアレストラン「よなよなBEER KITCHEN」を東京・永田町にオープン。飲食業にも参入を果たした。2005年から2013年まで9期連続の増収増益を達成し、成長軌道を突き進む。

 絶好調の井手だが、エンジンがかかるのは遅かった。親友でNECに勤める堀内渡は、「人生の年表を巻物にしたら、井手は普通の人よりもはるかに長くなる」と笑う。

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