最大規模でも価格優位築けず

 摩擦を生んでも理想とする小売業に近づいているのならいい。しかし、発言力こそ高まったものの、現状では規模拡大がイオンという企業の強さにまで結びついていない。

 自前の物流網を整備し、PB開発に力を注いできたが、衣料や住居用品の分野ではより製造段階にまで踏み込んだファーストリテイリングやニトリといったSPA(製造小売り)企業の後塵を拝する。食品ではトライアルカンパニーやベイシアといったディスカウント系の小売りと熾烈な価格競争を繰り広げている。消費が冷え込んだ昨秋以降、スーパー各社は安さを競った。しかし、価格の引き下げに見合うほど買い物客は増やせず、イオンを含め総合スーパー各社の今期の業績不振につながっている。

 製造にまで入って粗利を極大化するSPAと経費率を極限まで抑え込んで利益を搾り出すディスカウント系のスーパー。流通の仕組みを変えようとインフラに投資し、規模を拡大してきたイオンだが、結果として中途半端な存在になってしまった。

 もちろん、物流などインフラへの投資はこれから生きるという見方もある。規模が拡大したといっても、日本の大手小売業の市場占有率は欧米企業に比べはるかに低い。欧米並みのシェアに引き上げれば、岡田が模索してきた流通の仕組みを変える仕掛けが大きな意味を持つ可能性はある。

 しかし、規模拡大で増え続けたグループ企業は既に180社を超える。収益低下の著しいイオンにさらなる規模拡大の余裕はない。岡田は、理想とする流通業の姿を追う前に、現状を正す必要に迫られている。

 実は企業としてのイオンは既に昨年2月、国内については拡大路線をやめるという方針転換を打ち出している。この重要な方針転換を発表したのは岡田の右腕である執行役の豊島正明だった。リーマンショック後の景気後退で、岡田は自己否定に踏み切る決断を迫られた。ただし、SCや総合スーパーの存在意義自体は否定していない。それが吉と出るか凶と出るか。

 「ワンストップで買い物を済ます需要は必ずある」と岡田は言う。だが、歴史に学べば、急成長した小売業が一度規模を縮小し、復活した例はほとんどない。岡田は、既に役割を終えたとも言われる総合スーパーをどう立て直すのか。自己否定だけで、会社が再び成長軌道に乗れるわけではない。就任当初から、岡田は「(社長は)10年でやめる」と答えていた。既にその10年を超えた今、経営者としての真の実力を試されている。

=文中敬称略

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