「メーカーによる支配を変える」

 新規事業の成功で会社全体が慢心したという側面もあるにはあるのだろう。だが、岡田は総合スーパーを放置してきたわけではない。むしろ、岡田ほど大きな理想を掲げてスーパーを変えようとしてきた人間はいないと言えるほどだ。にもかかわらず、総合スーパーは消費者の支持を得られなくなった。なぜなのか。

 「消費者に代わって生活に必要なものを購買するという小売りの機能を徹底し、小売業を合理的な産業に変える」。これが、岡田が追い求めてきた理想の姿である。

 「欧米人の方が話は合う」とも言われるほど合理的な岡田の目には、日本の流通業は常に非合理なものとして映ってきた。巨大流通業が大きなシェアを握り、メーカーなどに対し大きな発言力を持つ欧米に比べ、日本はメーカーや卸の発言力が強かったからだ。「メーカーによる支配構造を変える」「日本は相変わらず士農工商で、流通業の地位が低い」。岡田は事あるごとに、こうした発言を繰り返してきた。

 日本の小売業が米ウォルマート・ストアーズや英テスコのように強くなるために必要なのは、小手先で店や売り場を変えるのではなく、流通業の仕組みそのものを変えること――。岡田はそう考えて、手を打ってきた。例えば、全国に8カ所の大型物流センター(リージョナル・ディストリビューション・センター=RDC)を作り、自社専用の物流網を整備した。卸を通した仕入れから、欧米で多いメーカーから直接仕入れる「直接取引」も導入した。いずれもメーカーや卸任せだった部分を、小売り側が主体的にコントロールする形に変えて無駄を減らす狙いだ。2007年にはグループのPB(プライベートブランド)開発や直接取引、物流を担う機能会社3社を設立し、岡田が掲げた「合理的な小売業」の完成形に近づいた。

 もっとも、合理的でありさえすれば、岡田の理想が実現できるわけではない。欧米流の合理的な小売業実現の前提には、何よりも規模が必要だからだ。メーカーや卸に任せていた機能を奪ったところで、規模がなければ大した合理化にはつながらない。英米でウォルマートやテスコの力が強いのも、結局は自国で大きなシェアを握っているからこそだ。メーカーや卸にとって多少面白くない部分があったとしても、無視できないほど巨大な存在であれば、小売りに従わざるを得ない。販売量が多ければ多いほど、PBを生産するうえでも有利に働く。

 だからこそ、岡田は就任からの10年超の間、グループの規模拡大に邁進してきた。新しい店舗形態として成功を収めつつあったSCを一気に増やしただけではない。積極的な企業買収に走ったのも規模を求めたからだ。

 旧ヤオハンやマイカルといった破綻企業を救済・統合したほか、首都圏を中心に食品スーパーにも出資して傘下に収めた。2007年には、かつて小売業日本一だったダイエーと資本提携し、持ち分法適用会社とした。提携当時、岡田は「国内の小売業が世界の基準に比べて劣っていれば、消費者のためにならない」と強調した。

 しかし、である。結果、イオンの影響力は高まったのだろうか。

 確かに、イオンをはじめとする小売業の合従連衡が進んだことで、メーカーに対する発言力は高まった。ビール業界でキリンホールディングスとサントリーホールディングスが統合交渉に入るなど、食品業界で再編が活発になっている背景に、巨大化した流通大手の存在があることは間違いない。

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