『日経ビジネス』は経営者を中心に優れたリーダーの決断や哲学、生き方に迫る多数の記事を掲載してきた。その中から編集部おすすめの記事をセレクトして復刻する。第2回はワタミの渡邉美樹氏。外食から介護、教育にまで手を広げた多才な経営者の生き様に迫った2009年の記事を取り上げる。

(注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。

2009年4月27日号より

創業者の渡邉美樹社長が会長になり、集団指導体制に移行する。高齢者の財産と生活を預かる介護事業の重さがカリスマ依存を許さない。「近代的経営に逆行する」現場重視の布陣で、DNAの継承に挑む。

大阪市で実施した社員集会で、渡邉美樹社長は事業を託す新経営陣の1人ひとりと握手を交わした(写真:山田 哲也)
大阪市で実施した社員集会で、渡邉美樹社長は事業を託す新経営陣の1人ひとりと握手を交わした(写真:山田 哲也)

 毎朝7時。東京・羽田にあるワタミ本社。渡邉美樹は薄墨の筆ペンを手に取り、挨拶状に自分の名前を記す。

 2004年に介護事業に参入して以来の日課だ。介護事業の子会社「ワタミの介護」が運営する老人ホームに入居していた高齢者の遺族宛の挨拶状。悔やみの言葉と、ワタミの施設を選んでくれたことへの感謝が綴ってある。

 挨拶状への署名は週に5通前後。渡邉は故人の冥福を祈りながら自問する。食事、入浴、居住空間、レクリエーション…。自分たちはこの故人に、終の住処としての安らぎを提供できただろうかと。不満を抱いていたとしても、挽回の機会は永遠に巡ってこない。

 渡邉の想像は、現在ワタミの老人ホームなどで暮らす2500人の入居者に及ぶ。ワタミが39棟を運営する介護施設の入居率は92.4%(2009年3月現在)。相部屋の一部に空室があるのみで、個室はほぼ満室の状態が続く。

ワタミの介護が運営する老人ホームでの食事風景。この日は鰻を提供した
ワタミの介護が運営する老人ホームでの食事風景。この日は鰻を提供した

 入居には、施設の立地にもよるが個室で500万~1000万円程度の入居金と、月々18万~21万円程度の管理費・食費が必要(介護保険給付の自己負担分など別途)。入居者は退職金や貯金で入居金を払い、年金を管理費に充てて施設で暮らしている。

 高齢者の人生を預かっているに等しい責任の重さ。これが渡邉の経営観を変えた。「ウチの経営が揺れることで、全財産をなげうって人生の最後にワタミを選んでくれた高齢者を不安にさせるわけにはいかない。ワタミは“潰れてはいけない会社”になった」(渡邉)。

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