『日経ビジネス』は経営者を中心に優れたリーダーの決断や哲学、生き方に迫る多数の記事を掲載してきた。その中から編集部おすすめの記事をセレクトして復刻する。第1回は日立製作所社長や経団連会長を歴任するなど、日本経済界のリーダーとして活躍し、2021年6月27日に75歳で世を去った中西宏明氏を取り上げる。

(注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。

2011年6月6日号より

創業100周年という節目に中西宏明が社長に就任してから1年以上が経つ。自ら立て直して黒字化させたハードディスク事業の電撃売却は、周囲を驚かせた。次の100年に向けグローバル企業への変革を急ぐトップの姿に迫る。=文中敬称略

中西 宏明(なかにし・ひろあき)氏
中西 宏明(なかにし・ひろあき)氏
1970年東京大学工学部卒業、日立製作所に入社。93年大甕工場副工場長、98年日立ヨーロッパ社長、2003年国際事業部門長。2005年北米総代表兼日立グローバルストレージテクノロジーズ(日立GST)会長兼CEOを経て、2010年から現職。「どんな仕事も徹底的にやれば次第に面白くなる」が信条。趣味は登山、料理、ゴルフ。(写真:菅野 勝男)

 「海外で働くことに抵抗がある社員が増えても問題はない。現地で採用すればいいだけだ」。グローバル化を目指す多くの日本企業経営者が抱える悩みについて、日立製作所社長の中西宏明はこう言い切る。

 日立は今年7月、「グローバル人財本部」を新設。世界中から優秀な人材を集めるため、米国、欧州、アジア太平洋、中国、日本の5極で、最適な人材育成・評価制度を作り直す。中西は「日本は特殊国」と位置づけ、日本流にこだわらず、グローバル化を目指す日立にふさわしい新たな人事制度を再設計する方針だ。これは6月9日に発表予定の「中期経営計画アップデート」の目玉施策の1つでもある。

 2012年に入社する新卒採用者の多くを「グローバル要員」として海外に送り込む日立。だがこれだけでは、グローバル化のスピードは上がらないと判断し、現地採用に乗り出す。

 2009年3月期に7800億円という巨額の最終赤字を計上した後、社長に登板したのが当時既に子会社の会長だった川村隆(現会長)だ。その川村が、中西を後継者に選んだ理由は「財務を健全化させる力、成長戦略を描く力、人・技術を育てる力の3つを満たしている」と判断したからだ。

「トップは技術への強い関心が不可欠」と川村隆会長(写真:陶山 勉)
「トップは技術への強い関心が不可欠」と川村隆会長(写真:陶山 勉)

 「中西は人間に興味があり、その面白さというものをよく分かっていて、物事を円滑に進めるスキルが高い。相手が日本人でも外国人でも、各メンバーの気質を捉え、情や知を使い分けるのも実に上手だ」。これが川村の中西評だ。

 川村の評価を、中西の過去の実績や社長就任後の施策を通じて検証してみよう。

 まずは、赤字続きだった米国HDD(ハードディスク駆動装置)子会社「日立グローバルストレージテクノロジーズ(日立GST)」を黒字化させ、今年9月末に米ウエスタン・デジタル(WD)へ売却するまでの過程だ。

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