『日経ビジネス』は経済誌としての50年以上にわたる歴史の中で数多くの名経営者や元宰相、世界的な学者らにインタビューしてきた。今では鬼籍に入って話を聞くことのできない方や現役を退いた方を中心に、時代を体現した“寵児”たちのインタビュー記事を再掲する。

(注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。

1999年4月5日号より

ピーター・F・ドラッカー(Peter.F Drucker)
1909年オーストリア・ウィーン生まれ、89歳。31年独フランクフルト大学で法学博士号取得。33年ナチスの手を逃れるために英国に渡り、保険会社、銀行に勤務。37年英国の新聞特派員、投資信託顧問として米国に移住。50年から71年までニューヨーク大学教授。71年クレアモント大学大学院教授となり、現在に至る。『断絶の時代』など30冊の本を著し、20言語に訳され、世界中で愛読されている。新著は『明日を支配するもの――21世紀のマネジメント革命』(ダイヤモンド社)。[写真:Eric Millette]

 今年末、90歳になるドラッカー氏。ほぼ1世紀を生き抜いた博学多識の社会生態学者は、21世紀の情報化社会が到来する前に奥深い混迷期の時代が続くと予測。コンピューター技術の発達やインターネット企業の台頭でさえ、まだ移行期の過渡的な産物と見る。
 情報技術のT(技術)ではなく、I(情報)が優先した時こそ、今の資本主義に代わる新しい世紀の始まりだと考える。そして、混迷を生きた明治の指導者たちに理想のリーダー像を見いだす。
(聞き手は酒井 綱一郎=ニューヨーク支局長)

日本が抱える深刻な2つのハンディ

 日本経済が不況になったのは、なぜか。日本的経営が何か間違いを犯したのか。まったくそうではない。18世紀の産業革命をも上回る大変革が起きているからだ。今は、奥深い過渡期(profound transition period)に当たる。

 この移行期にあって、間違いは避けられない。経済が成熟化したから日本経済が下降線を辿っていて復活できないと捉えるのも違う。どんな経済にも浮き沈みは付き物だ。米国経済は1980年代の10年間、長いトンネルを通って、それまでとは異なる新しい経済体制に移行した。日本も5年から10年の苦しみを経ねばならないが、その次には新しい経済体制の下で発展の時代が再び訪れる。