商社の使命は資源・原料安定輸入

 この物不足時代に商社が果たすべき役割をどう考えますか。

 これは社内に言うておることですが、こういう状態の時に世界的な流通を担当する商社の最大の使命は資源、原料を安定して日本に持ってくる。同時にそれをするための輸出。タダで資源を持ってこれるわけではないんですから。

 ただ、現地で原料を買って日本に持ってくる、これじゃあ安定にならないんです。自らリスクを冒して開発に入り込むか、少なくともその開発に融資して持ってくるか、そういうことにできるだけ切り替えていく。

 ですから相当のリスクがあります。ことに食糧なんてのは、私のところでも、スマトラで相当大きな規模で、トウモロコシの栽培をやっている。これが企業的には赤字です。最小限5~7年かけないと、モノにはならない。

輸出罪悪説は本質見失った議論

 物不足が、従来一部にあった輸出罪悪説を勇気づける心配がある。原材料価格の上昇で国際競争力が弱まったり、輸出を意識的に押えるとかで、エネルギーや原材料を輸入するのに見合う外貨収入が将来とも確保できるか、決して楽観はできないと思うのですが。

 輸出罪悪説が去年あたり出ましたが、これは日本の国家としての本質を見失った議論だと思いますね。国民経済を伸ばし、国民生活を安定させて行くには、資源を持ってこなきゃならん。タダで持ってこれるわけではないですからね。それに見合った輸出が必要です。

 従来のような輸出至上主義、生産第一主義は問題だと思うが、これが輸出罪悪説にまで飛躍したのでは、国家という大きな船が変な格好になりますね。もうちょっとそこにバランスを持った指導が必要ですよ。

 たとえば、私の会社でも、あの時代は輸出を伸ばすことが我々の最大の使命だとしてきた。そこで十数年前、社内に輸出振興制度を作って、沢山の経費がかかる輸出を振興してきた。それが、一昨年の後半あたりから全然逆になってきた。

 今日は右、あしたは左向けというようなものですからね。そんな朝令暮改では、社員は向かうところを失ってしまいますよ。要はバランスの問題でね。そこで新たに、輸入振興の制度を社内に作りました。そして輸出の振興制度はとめました。しかし、これは廃止ではなく、いつでも発動できるようにとめてあるだけです。

 また、輸出部門を縮小したりはしていません。私の会社では海外に約800人の駐在員を置いていますが、これは十数年前の輸出振興時代に即応する人事構造になっています。商社マンはみんな専門を持ってますからね。また輸出と輸入でも多少専門が違います。

 いまや輸入振興時代に入ったからといって、輸出専門の者は皆帰国せよ、そういうドライなことは人事的にもできません。またやれたとしても、それは本質を見失うことになる。輸出専業と輸入専業の人事構造のバランスを多少改善はしましたが。

 実際、1年前はドルがどんどん備蓄されていたのが、現在はどんどん減る時代。今後数年以内に、いやもっと早いかもしれません、輸出にもっともっと力を入れなきゃならん時期がくると感じています。

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