『日経ビジネス』は経済誌としての50年以上にわたる歴史の中で数多くの名経営者や元宰相らにインタビューしてきた。今では鬼籍に入って話を聞くことのできない方や現役を退いた方を中心に、時代を体現した“寵児”たちのインタビュー記事を再掲する。

(注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。

1973年9月17日号より

 いつまで続く物不足――このままでは来年は一体どうなるのだろうか。世界を巻き込んだ物不足経済の下で、資源輸入国日本はいま何をなすべきか。
 伊藤忠商事の瀬島龍三副社長に聞いてみた。
(聞き手は本誌編集長、太田 哲夫)

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 “材料倒産”さえ聞かれる深刻な物不足ですが、世界的な流通業務に携わっておられる立場から、本当の原因は何だと思われますか。

 物不足には、実態的問題と心理的問題の二つの面があるのではないですか。実態的問題には、世界全体の構造的原因と一時的原因があるし、それらの日本に対する波及、それと日本自体の原因があると思う。それから心理的問題というのは、世界でも日本でも仮需要を起こしているということだ。

 構造的な問題は環境問題などによる生産至上主義からの脱却、労働力不足、世界的な資源危機感の高まりなどがあるが、結局は総需要と総供給のバランス問題ですね。総需要は、個人消費や昨年まで金融が相当ゆるんでいたため、非常に旺盛だし、インフレによる換物傾向も出やすい条件にある。だから総需要は少なくとも今まで加速されてきた状態だ。

 総供給。これはまたいろいろ問題がある。資源にはエネルギー資源とか鉱物資源のように再生産されない資源と、食糧のように毎年再生産されるものがある。再生産されない資源は、やっぱり供給する国がただ資源を売るのではなく、工業化を推進するためにも安売りはしない。しかもOPEC(石油輸出国機構)のように横の連帯が強まっている。この傾向は、僕はエネルギー資源だけでなく、それ以外の再生産されない鉱物資源にも及んでいくと思うんです。

 昨年は共産圏、アメリカ、オーストラリアで、天候異変があった。再生産される原料は大部分気象の影響を非常に受けますからね。これにインフレと心理的問題が加わって、全体として遍迫感を増してきたと思う。日本はエネルギー、衣食住、鉱物資源のほとんど全部を海外から持ってくるので、世界の需要関係の影響を一番うける国だ。国内を考えても、供給面で今までは輸出第一主義、生産第一主義で、十数年間やってきたわけです。

 だが、昨年から公害などで生産第一主義よりも、もっとバランスをとった企業の経営というマインドに変わってきているんではないですかね。従って、どんどん設備投資して需要に即するではなく、落ちついた生産の傾向に入ってますね。

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