問 田中さんが通産相当時、ニクソン・ショックが起きたわけですが、今後、日米間でこの種の問題が起きることは考えられますか。
答 ドル防衛ということはあるけど、どうでしょうか。米国はいま20%の高金利政策をとっている。その効果は出てきますよ。日本経済はいま世界中で一番バランスがいいでしょう。
ところが円はドルに対し1ドル=230円だ。米国経済が強くなってきたんだなあ。そういう状態なら日米間の摩擦は少なくなる。その反対に、キー・カレンシーとしてのドル価値の維持ができないとなると日米間の摩擦は増大する。ただ、今後はだんだんとドルが強くなる。また、強くならねばね。
問 英国のサッチャー内閣の経済政策はうまくいっていないが、レーガンの経済政策も同じようなことをやっている感じがしますね。
答 そんなことはないよ。サッチャーの場合は追いつめられており、本当の行政改革だ。戦前の日本の浜口雄幸、井上準之助の金解禁コンビと同じように1930年不況に対処するような政策をやっているわけですよ。英国の場合、世界の七つの海に浮かべていた英連邦諸国との特恵を全部なくしたほどだから、それは大変だよ。そこまで行ったから、英国は本気で改革をしなきゃならんわけだ。
米国の場合は本当はまだ力もあり、余裕もあるわけさ。米国がNATO諸国との関係を第一次大戦の前に戻すと言い、軍事費負担を減らすなんて言ったら──まあ、言いはしないが──NATOの連中は困るよ。レーガンとサッチャーの政策は同じにみえても、置かれた条件が違う。
田中軍団
私は一貫して政治の真ん中にいました。それが若い人には魅力なんです
問 田中派は衆参議員合わせて105人。自民党内で最大派閥であり、数の力で実際に政治を動かしている。一般の人からみると田中さんの力の根源はどこにあるのかという感じなんですが……。
答 大体、誰でも首相になると、派閥の力に乗って首相になったにもかかわらず翌日から派閥解消を言い始める。私の場合はひと言もそれを言わなかったけれどね。派閥というのは必ずしも悪い意味ばかりじゃないよ。
私の場合は昭和21年から選挙に出ているんだけどね。私は戦後一貫して政治の真ん中にいました。その辺が若い人にとって魅力なんでしょうかね。野球でいえば、ネット裏でなくたえずグラウンドの中にいる。タマ拾いをやったり投げてみたり、アンパイヤーをやったりで、グラウンドという広い意味の政権の中にいたわけよ。そこが違うんだ。だからいまでも若い者は相談にきますね。
〈傍白〉
「いやあ、夕べは暑くて寝苦しく、午前4時過ぎまで眠れなかったよ」──でインタビューが始まった。「歯を急に悪くしてね。だから写真は勘弁してよ」とおっしゃる。写真なしでは格好がつかないので、ムリに頼んで撮らせてもらった。豪放磊落に見えて、細かい気配りをする人のようだ。陽焼けした顔はつやも良く、健康そのものという感じ。ダミ声の早口で、相手のひざをポンポンと扇子でたたきながらしゃべる仕草も首相当時と変わらない。
鈴木政権の将来については、政権の長期化を示唆しながらも、「大平の衣鉢を継いでいるかぎり」とクギを刺すことも忘れなかった。2時間半のインタビューでとりわけ熱弁を振るったのは、行政改革。国土省、食糧省はじめ、数々の注目すべき「角栄構想」を披瀝した。政府、自民党首脳の間では、すでに行革の第2.第3ラウンドについて検討が進んでいるのだろうか。日中国交回復交渉の際、故周恩来首相と丁々発止とやり合った秘話を公式に披露したのも珍しい。角栄節はまさに健在で、内閣改造も取りざたされるこの暑い夏、目白御殿を訪れる客足は、ますます繁くなりそうだ。
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