大平君の衣鉢を継ぐという自覚を忘れたら鈴木君は一発やられますよ
問 鈴木さんという人は、いったん思い込んで決断するとなかなか動かないというところがあるんじゃないですか。
答 うん。あの人の生まれは岩手県だ。岩手県も太平洋で、日本のチベットと称されるところだ。だから、それはたくましいと思うよ。余談だがね、北陸本線に石動(いするぎ)というところがある。ところが岩手に行くと、この石動が途端に“岩動”になっちゃうんだな。
同じく“いするぎ”と読ませるわけだが、これは同じ人から由来してるんだ。北陸から岩手に逃れた人、居を替えた人が石を岩に入れ替えた。岩手人には相当なたくましさがある証拠だよ。鈴木君、どっちにしてもタダ者ではない。
大平-鈴木、田中-二階堂というと諸君がみてもどっちが明るいか、どっちがおっちょこちょいか、すぐわかるじゃないか(笑い)。これは万人周知のことだ。大平正芳はクリスチャンだけれども、私は初めから真言宗、弘法大師ですよ。クリスチャンの真似はしない。
ところが彼の選挙地盤(香川県)は弘法大師誕生の地だ。大平君は自分の選挙区では真言宗の戒名をつけて石塔を建てる一方で、東京では十字架もちゃんと建てていた。それくらい政治性を持っているんだ、大平君は(笑い)。その反面、一昨年の40日抗争のときでも(大平君は)譲らぬときは断じて譲らないじゃないの。私ら政党人は、すぐ足して二で割ったりするのでまだ弱い。
問 鈴木政権の背景に田中、福田両大御所が手を結んで支えているのが大きい。
答 それはそうですよ。田中も福田ももう首相をやったんだもの。やって終わりだから後の自民党政権を支える責任を持つのは当たり前です。
問 それはそうですけど、あえて言えば鈴木体制でなくてもいいわけですね。
答 そりゃ、どうかな。鈴木内閣を考える場合、大平体制が任期半ばで倒れたということをよくわきまえなければいかん。しかも大平総理の名前で総選挙をやって、国民の支持を得ながら倒れたんだから、次の政権はまず自民党の中で担当することは間違いない。ところが、自民党の中にも流れがある。その中で大平の流れから看板を出そう。みんなそういう気持ちだったんだ。
そういう意味で鈴木君が選ばれた。鈴木になるか、伊東(正義)になるか、斎藤(邦吉)になるか、みんな考えたんじゃないの。思想、政策は自民党の網領によってやるんだけれども、大平が信を国民に問うて結果が出たんだから、少なくとも大平の人脈の中から次の総裁を選ぼうというのは最大公約数だし、日本人なら黙っていても出る結論だ。
これを半年とか1年で引きずりおろそうなんて言ったら、誰も承認しないし、理解を示すはずがありません。大平の衣鉢を継いでいるから、党もみんなも認めているんだ。彼がその重さを自党している限り、鈴木内閣は続くさ。そうじゃなくて、とんでもないことを考えたりしたら、これは一発やられますよ。
鈴木君は総理になる前、ワシは人をつくるのが商売で、総理になろうなどということは全く考えない、と言っていたでしょう。その時のことを裏返して言えば、副総裁とか衆議院議長になって晩節を全うするんだという意味だよね。荒っぽい第一線に立って采配を振る気はないというわけさ。それをみんなから、そんなこと言わないで総理になって下さいと言われてなったんだから、逆に彼はその責任の重さを痛感しなければダメなんだな。
それをちょっとはみ出して、「嫌だ、嫌だという僕を引っ張り出したんだから、少しくらい恣意のおもむくままにやっても許されるだろう」なんて考えたら、鈴木君は手厳しくやられるよ。むろん鈴木君もまだ、「少しは僕のわがままを許せ」なんて言ってないけどね。いや、少し出てきたかな(笑い)。
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