『日経ビジネス』は経済誌としての50年以上にわたる歴史の中で数多くの名経営者や元宰相らにインタビューしてきた。今では鬼籍に入って話を聞くことのできない方や現役を退いた方を中心に、時代を体現した“寵児”たちのインタビュー記事を再掲する。

(注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。

1981年4月20日号より

 官業、国鉄小荷物と郵便小包を食う宅急便の大和運輸。「安さ、速さと、自宅まで取りに行くサービスの差別化が急成長の秘密」とみる小倉昌男社長は、1人ひとりがその場その場で判断、行動する“全社員フォワード論”を唱える。
 国民のお荷物、国鉄については「費用が収入を上回るから切り捨てる、というのは逆立ちした発想。収入をあげる営業の強化こそ本筋」と診断、建て直し策を提言する。
(聞き手は本誌編集長 杉田 亮毅)

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小倉 昌男(おぐら・まさお)氏
 大正13年12月生まれ、56歳。昭和22年9月、東京大学経済学部卒業。23年9月、大和運輸入社。36年取締役、40年専務、46年3月、社長に就任。高速道路調査会評議員なども兼務しているが、「通運業界のリーダーは大体創業者で、バイタリティーはあるが無謀な面も多い。“メダカの学校”の歌じゃないが、誰が生徒か先生か、なんてズケズケいうもんだから業界内部の評判は悪い」と自認している。4、5年前から、常磐津と義太夫を始めた。

:金融界などでは、郵便貯金、つまり官業による民業の圧迫ということが問題になっています。ところが、運送業界、なかでも貴社の場合、宅急便の急成長をみますと、逆に民業が官業を圧迫しているといえそうですね。国鉄や郵便などにできないことをどうやって可能にしているのか、官業を食う秘密をまずうかがいたい。

:私のところの宅急便が伸びていますのは、例えば、鉄道小荷物もしくは郵便小包に比べて、サービスが良い、ということですね。それに尽きると思います。具体的に言いますと、第一にこちらから、お客様のところへ集荷に行きます。鉄道でも郵便でも、お客様が持ち込まなければなりませんね。これは明らかなサービスの違いです。

 次に郵便局の場合は重量制限が6キログラムまでですが、ウチは20キログラムまで扱います。それから荷造りも簡単で構わないんです。郵便局ですと、いちいち荷物にひもをかけねばなりません。簡便だということですね。

 それから、3番目に速いということです。これが決め手だと思います。ウチの場合は東京から言えば、大体関西、東北地方には翌日、必ず配達するようにしてます。およそ700~800キロメートルまでは翌日配達を原則にしています。それ以上でも遅くとも3日目には着くんです。

傾いたデパート配送のテコ入れに、業界が見捨てた近距離貨物を狙った

:宅急便のような商売は、民間の運送業界では従来、とても手間ひまがかかり、採算に乗らないとみられていたんではないですか。

:そうなんです。貨物には、商取引に基づく商業貨物と、冠婚葬祭や引っ越しなど個人の生活に伴って起こる非商業貨物があるわけですが、運送業界は、高度成長期に人手不足と人件費上昇が深刻化して、手間のかかる小口貨物輸送から大口貨物に重点を移してしまった。しかし、私は路線トラックというのは近距離小口貨物をないがしろにしてはいけないと思ってたんです。

 遠距離貨物は国鉄でもやれるけど、近距離小口はそうはいかない。個人的にも、親せきに子供のいらなくなった本など小さな荷物を送りたくても送る方法がない、という経験をしまして、これはやはり、何とかやらねばいかん。トラックがやらなかったら誰がやるんだと痛感したんです。

 それから、低成長経済下でも景気に左右されにくいマーケットというのは生活関連分野だということでしょうね。戦後、デパートの配送に力を入れまして、その収入は会社全体の15%くらいになってました。ところが、コストが上がっても、デパートの方は簡単に配送料金を上げてくれないということで、だんだん経営困難になってきたんです。

 しかも、デパート商品は盆、暮れだけ忙しいんです。といって、昔からやってるデパート配送は捨てたくない。そこで、このデパート配送を成り立たせるためには、これと似た商品を組み合わせれば良いということを考えて、郵便局の小包のようなものを開拓してみたらどうか、ということになったんです。

 さらに付け加えますと、米国にユナイテッド・パーセル・サービスという会社があります。これが郵便局と張り合って小荷物分野では郵便局より大きい仕事をやってるんです。それならば、日本でも成功しないことはなかろうということですね。

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