『日経ビジネス』は経済誌としての50年以上にわたる歴史の中で数多くの名経営者や元宰相らにインタビューしてきた。今では鬼籍に入って話を聞くことのできない方や現役を退いた方を中心に、時代を体現した“寵児”たちのインタビュー記事を再掲する。

(注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。

1974年1月7日号より

 OAPEC(アラブ石油輸出国機構)の日本向け原油削減措置は解除されたが、原油価格引き上げ攻勢は今後も続く。業種によっては高い石油に耐えられない場合も出てくる。嵐に遭遇した船は乗組員の呼吸が合わず、うろたえたら沈没する。
 船長はいま何を心懸けるべきか。盛田昭夫氏が明かす生き残るための経営指針とは……。
(聞き手は本誌編集長、太田 哲夫)

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 いまのように物不足で先行きの見通しがたちにくいとき、経営者として何をいちばん眼目に置かれていますか。

 確かに先行きがどうなるか本当に誰もわからないだけに、どうしたらいいかを的確に言える人は誰もいないと思います。

 私は、特に2回目の円切り上げのときから、荒天準備を心がけてきました。いつ嵐がくるかわからないので体力を養成して備えなければというわけです。いまや嵐の中にはいったんだが、その嵐がいつ完全に通りすぎるのか皆目わからない。さて嵐の中でどうやって切り抜けるのかとなると、どんな船長でも明確な答は出せないのが普通でしょう。風向きも波も変わるし、そのときの情勢に応じて、臨機応変に動かすという以外にはないんじゃないか。

 結局、予測不可能な情勢変化に対していかにフレキシブル(弾力的)な態勢を維持していくかが第一です。わが社の場合、わりに健康体で嵐を迎えたということが幸いしてますが、船長と船員との間の信頼感も大切なことです。嵐の真ん中で「うちの船長のやり方がいかん」「うちの船員は働きが悪い」とけんかしているのがいちばん悪い。

 残念ながら、世界中が嵐に巻き込まれているというのに、大国である米国は船長と船員の間の信頼感が欠如している。日本も多少、その傾向がありますね。これは国という見地から非常に危険なことです。政府も国の置かれた苦しい状況を早く正直に国民に言わなければならないのに「これをいうと国民がうろたえるのじゃないか」という不信感で、情報を小出しにしか出さない。

 だいたい会社でもそうだが、トップが下を信頼しなきゃ、下が上を信頼するはずがない。まず、トップが下を信頼する姿勢を示し、率直に困難な状況を言うことが大事です。でなきゃ、一致体制もできない。フレキシビリティを持つということも、会社をあげて的確な処置が的確なときに行なわれるということに通じる。これにはやはり信頼感の存在が不可欠だ。

 もう一つはインフォーメーション(情報)です。われわれのように、たくさんの部品を使って物を作っていると、ほんの一つの部品供給が止まっただけで、全体が止まるということもある。そのとき、情報の流通がよければ、こっちの原料を一時、そこに回すというように有無相通じることができますね。

 わが社だと、テレビを作っている人はステレオも作れるし、ステレオをやっていてもテレビを作ることもできる。船が浸水で沈みかけているというのに、コックが「おれはオムレツを焼くのが仕事だ」と言ってポンプを押さなきゃどうしようもない。

 それぞれの仕事やスペシャリティ(専門分野)も大切だが、いざとなればグループとして一つの方向に即座に動けるというのが、嵐の中のクルー(乗組員)じゃないでしょうか。信頼感にあふれていて、情報の通りをよくしてフレキシブルな態勢で備えるということ以外に「こういう方法でやれば必ず生き残れる」というような簡単な解答は出てきません。

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