『日経ビジネス』は経済誌としての50年以上にわたる歴史の中で数多くの名経営者や元宰相らにインタビューしてきた。今では鬼籍に入って話を聞くことのできない方や現役を退いた方を中心に、時代を体現した“寵児”たちのインタビュー記事を再掲する。

(注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。

1973年7月23日号より

 このほど米寿を迎えた石坂泰三氏(経団連名誉会長)。「教養と言い、度胸と言い、あんな人もう出ません」(舘林リコー社長ら)といわれる当代最高の経済人。その目に、いまのビジネス世相はどう映っているか。本誌のインタビューに「ぼくはもうアウバン(OB)かロストボール」と笑いながら「経営は“常識”だよ」と改めて“コモンセンス”の重要性を語った。以下は最新の“石坂語録”――。
(聞き手は本誌編集長、太田 哲夫)

   *   *   *   

常識でものごとを判断するってことは、あれでむずかしいんだ。コモンセンスというのは、あれにもこれにもすべてのことに当てはまるからこそ、そうなんで、普遍性を持っている……。

 論語に造詣が深い石坂さんの目からみると、いまの世の中はどうなんですか。

 論語ってものは、いまの時世に対しても、ちっとも恥ずかしくないね。大したもんだと思いますよ、孔子という人は。釈迦やキリストにも匹敵する偉い人だ。だいたいにおいて時世に合わないことはほとんどない。もちろん、合わないこともあるけれど、その場合は、時世のこっちの方が悪いのかもしれませんよ(笑い)。

 このごろはもっぱら碁を打つことと、気に入った中国の詩の文句を手習いすることで時間をつぶしているんだが、ぼくはゴルフでも何でも先生につかないからダメですねえ。

動機が悪けりゃすべてが悪い

 経営にも先生という存在があるんでしょうか。

 そりゃ、実際に経営したことはあらあね。だけど、いまのように経営とは何であるかとか経営学なんてものは勉強したことがない。常識でやったんだ。

 ぼくはね、常識ってものは偉いもんだと思うんだよ。常識でものごとを判断するってことは、あれでむずかしいんだ。いろんなグレード(段階)があるからね。コモンセンスというのは、あれにもこれにもすべてのことに当てはまるからこそ、そうなんで、普遍性を持っている。一つのことしきゃ当てはまらないのはスペシャルセンスだね。

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