若者がだらしないとは思わない

 いまの若者はだらしないという言い方もありますが。

 私はだらしないとは思わぬな。僕は絶対そんなことは言わないですよ。私たちが若い時だって年寄りにはいまの若い者はだらしないとさんざん叱られもしたですネ。叱られた僕たちが、飛行機を飛ばし、月の世界まで行けるようにしたという事実はどうしようもないネ。そういうことを言っていると、社長は辞められぬですよ。辞める気にならぬですよ。坊主が引導渡す時が辞める時になっちゃう。

 人間は感情の動物ですが、ズケズケ言う社員と、逆に、うまい言い方で社長に取り入る社員とどっちがかわいいということになりますか。

 そういうことを区別して取り入れてゆくのがトップだと思うネ。それを一寸でも感情的に動いたら茶坊主を作っちゃうな。苦いことを言って、本当に役に立つような人を追いやっちゃうネ。

 それを避けてゆくコツは。

 いいこと言うのも意見だし、苦いこと言うのも意見だということで、トップの人は冷静に考えなければいけませんネ。どうしても、自分のところに言ってくると、ついフラッとするもんですよ。だが、経営者はそういうことの区別が一番大事じゃないでしょうか。これでぐらついたら経営者とは言えませんよ。それで警戒していても、ふらつくというのは人間だよネ。だから、よっぽど気をつけなけりゃいかぬと思うね。

 これでいろいろな人間を誤らせますネ。僕らの身辺には皆が注目していますからね。自分の同僚のことは同僚同士が知っています。なんだ、あいつはうまく取り入りやがってということになる。働くことはない、うまいこと言っていればいいんだということになる。仕事に熱中しないよね。

信頼とは人の過去の蓄積なんです

 今日まで伸びてきたのは、他人のやらぬことをやってきたからだろうと言われましたが、そういう経営をやるうえで、基本として頭に置いてこられたことはなんですか。

 他人のやらぬことをやってきたということは具体的な表現であって、一番大事なことは“信頼”という問題で、これが経営の一番基本じゃないですかネ。何かあった時に「おれを信頼しろ」と言っても、信頼できないよ。信頼とは何かと言うと、過去の蓄積、その人の行った蓄積しかないですよ。その人の歴史が信頼となるか不信頼となるかだけだと思う。

 私は15年も20年も前から「本田技研は本田家のものじゃない。あくまでも株主のものだ。ひいては世間のものだ。本田家には継がせないよ」と言ってきた。いまさらせがれを入れて──うちのせがれもイヤだというからちょうどいいが──譲ったりなんかしたら、いっぺんに本田技研はガタつきますよ。

 特に20年も言ってきたことだし、そんなことしたら僕という人間は抹殺されちゃいますネ。入ってきた社員も本田技研というのはこれだからいい。おれはあそこの完全に社員だ。本田家のものじゃないという考え方を持っているからネ。うちの重役の子供は誰れも入れていない。この事実をみてくださいよ。社長のせがれが入り、副社長の専務のとせがれが入ったりしたら、下の者は上に上がれませんよ。

 もう一つ、私みたいに、トップにいると、うちのせがれも入ってきたりしますと、やはりいやでも社員のことが自分の耳に入るようになるでしょうネ。社員は自然に遠ざかりますよ。私はそれを一番恐れたんです。

 豊臣秀吉は、よくそういうバカなことをやったんですよ。

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