産業需要だけ抑えればやがて不況に

 いまのインフレの原因はなんだと思いますか。

 やはり、戦後28年間、特に最近の十余年間続いた高度成長路線がもうやっていけない所にきているということです。それをインフレが端的に物語っているのではないか。

 物価を抑えようとして、引き締めを強化し、有効需要を抑えようとしているのがいまの段階ですね。ところが、引き締めで生産は落ちても、賃金水準は抑えられない。景気は停滞するが物価には効かないということになるでしょう。

 だから、よほどインフレ対策を根本的に考えないと、いわゆるスタグフレーションという現象が必ずやってくる。いま総需要抑制ということが物価対策の要であるといわれている。総需要というと、5割が国民消費、2割が政府需要、また2割が産業需要で、残りの1割が輸出だ。ところが、正月以来とられている金融引き締め政策はわずか2割だけの産業需要に向けられているわけだ。

 さて財政の方は7000億円ですか繰り延べたが、これはむしろ執行できないから繰り延べた面がある。やはり、いまのインフレ対策というのは金融引き締めを主軸にしたもので、総需要抑制とはいうけれど、主力は産業需要にかたよっていると私は思う。

 そうすると、いつかは分からんが、不況状態が出てくるのではないか。この不況状態も全面的に出てくるわけじゃない。引き締めの影響をセンシブルに受けなくちゃならんという産業や企業をきっかけとして不況感がまず出てくる。それから不況が続いてやってくる。

 だから、卸売物価はある程度、水をかけられる。しかし、賃金の上昇とか原材料の高騰とかで動く消費者物価の方は別だ。したがって、スタグフレーションに陥らないためには相当努力が必要になる。うっかりすると、スタグフレーションが深刻な形でやってくる。

所得政策は勤労者が納得しなければ

 いまのインフレはデモクラティック・インフレだという指摘がある。デモクラシーでみんな自分の能力以上のことを要求し始めている。だから物価は上がる。そこで日本でも所得政策が必要になってきた、という意見も出てきた。しかし地価狂騰という欧米にない問題をかかえていては、所得政策はきわめてむずかしいと思われますが。

 たしかに、欧米並みの所得政策はむずかしい。欧米と違って日本はいま、所得の平準化作用が進んでいる過程ですからね。それからもう一つはこれだけ消費者物価が上がっているときには段取りとして所得政策はむずかしいということです。まず、勤労者が納得するような環境条件を整えてでないとダメだ。

 「さぁ、地価も凍結しますよ、配当も規制する。だから勤労者も物価対策に協力を」というオールラウンドの施策で、しかもそれをやれば物価が先々安定するという見通しが納得される時間でなければねえ。

 また、デノミの話が出ていますね。

 デノミというのは、私は大蔵大臣のとき、計算上の便利とか、またささやかではあるが、国の体面というようなこともあって「いつの日にか3ケタの状態というのは清算しなくちゃいかん」といっておった。しかし、いまは物価を安定させることが先決だし、デノミとはそれがどんなものか理解されていない段階では物価の安定をますます困難にしてしまう。とにかく、物価問題が最悪のときにデノミなんて持ち出すことは論外だ。

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