『日経ビジネス』は経済誌としての50年以上にわたる歴史の中で数多くの名経営者や元宰相らにインタビューしてきた。今では鬼籍に入って話を聞くことのできない方や現役を退いた方を中心に、時代を体現した“寵児”たちのインタビュー記事を再掲する。

(注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。

1973年10月15日号より

 インフレでいら立ちを深める日本の経済社会の行く先は、この好況のあとに待ち構えるものは何か……。一貫した安定成長論者として独自の経済観を持つ福田赳夫氏にいまの世相を診断してもらった。
(聞き手は本誌編集長、太田 哲夫)

 最近の世相をみていると、豊かにはなっているけど、なにか安定感がなくなっているようにみえますね。

 たしかに、ポバティー・イン・プレンティ(豊饒の中の貧困)という感じが強い。こういう時期は戦前にもあった。昭和初期は大変な不況でねえ。ボクは昭和4年に大蔵省に入ったんだが、まるで宝捜しのような気分だったね。

 当時はいまと違ってデフレだ。中小企業はバタバタと倒れるし、大銀行が取り付けにあって倒産した。一方で財閥はますます地歩を固め国民の反感が強まった。しかも、不況が農村まで浸透し、青年将校の決起となった。5・15事件に続いて満州事変が起こり、日華事変、第二次大戦へとつながっている。

 そういう経過をみていると、いまの世相があの当時と非常に似通っており、なにか、国民がいらいらしている。もちろん、だからいまの世相が戦争につながるなんていうことは考えられない。しかし、それだけにいっそう物騒というか、どうなっていくか分からんという感じだね。

 ある外人記者が書いた日本訪問記に「日本は第二次大戦で敗けたが、その心まで失ってしまった。たしかに、高層ビルの鉄骨は林立している。ネオンは夜空に輝いている。しかしなにか痛ましいものがある」とある。

インフレでは先々の見通し立たぬ

 心休まらなくさせているものは一体、なんなのでしょうか。

 いろんな原因があるんだろうが、やはり、インフレが一番、災いしている。いま、日本にインフレがあるのかどうか、皆さん、いろいろ意見はあるようですがね。これはまあ、学者に任せればいいことで……(笑い)。しかし、物価問題が容易ならざる段階にあるということはだれも異論はない。

 卸売物価にしても、消費者物価にしても、先進諸国の中で群を抜いている。特にああいう数字に出てこない一面あるのは地価問題です。これは地価の暴騰というか狂騰ですね。そういう状態をみると、日本の物価というのは世界の中でも異例な様相といえる。

 インフレ社会の中ではやはり、小さい者、弱い者の立場が弱まり、逆に大きな者、強い者の立場が強くなっていく。そうなると、社会公正というか、社会の安定という基盤にふれた問題が出てくる。

 もう一つはわれわれの私生活なり事業活動にしても、先々のことが見通しがつかなくなるという問題がある。「さぁ、子供が高校に入った、3年たったら、大学だ」というんでその準備をする。まあ、子供のことが家庭の一番の関心事だが、そのカネが半分の役しか立たん、ということになったら、その親の気持ちはどういうふうなものか。

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