「鳥の目」「虫の目」という言葉があります。鳥の目は広い視野で物事全体を把握し、虫の目では広い視野では見落としてしまう小さな動きを把握します。経理業務に触れる機会が少なく、いわば素人である私たちの強みは鳥の目で「そもそも、その業務をなくすにはどうすればいいのか」と俯瞰(ふかん)的に物事を捉えられること。これによって、ユーザーが気づいていない困りごとを見つけ出します。

 でも、普段から経理業務に接する人たちが持つ「虫の目」を持つことも大事。そのために有効な手段が「自らがユーザーになること」です。LayerXでは経理担当出身や公認会計士である「ドメインエキスパート(経理領域のプロダクト検討・改善)」というメンバーが存在します。彼らの役割は、自分の業務を開発チームにインストールすること。そのやりとりを通じて「バクラクではどんなUXを実現できるか」に必要なヒントを得ています。

99社に否定されるBtoBサービスのほうが成功する

 いいUXを持つBtoBサービスが選ばれるようになったこともあり、企業内では「製品スペック表を見ながらサービス導入を検討」から、現場の方々が「便利・使いたいと思えるものを導入」へと判断軸が変わりつつあります。

 ところが、ゼロベースでいいUXをつくるのはそう簡単ではありません。そういったソフトウエアはたいがい「今までにない概念」から生まれるため、最初は理解されにくいケースがほとんどです。強いビジョンを持ってリリースしているからこそショックを受けますが、むしろ私は100社に1社がいいとするもののほうが成功しやすいと考えています。

 ここで指すビジョンとは、ユーザーの行動と自分たちの技術知識をかけ合わせた結果「この業務はこうなったほうが絶対にいい」と自信を持って言える構想のこと。

 敏感なユーザーは、いいUXを感じられるソフトウエアしか触りたがりません。そしてBtoBサービスは商習慣の強い方へ引力が働きます。サービスが浸透するまでに時間がかかりやすいだけなので、100社中1社がいいと言っている部分を徹底的に伸ばせば、残り99社も次第に目を向けるようになるはず。

 信じられるビジョンを持つことは、スタートアップにとって大事。逆に「99社に否定されてしまった」と不安になって手を止めてしまうようなら、いっそやめたほうがいい。

 LayerXでも、メンバーたちと何度も話し合いながらビジョンを築き上げてきました。もちろん、すべてうまくいったわけではありません。最初にリリースした「バクラク請求書」の営業では、何度も断られました。それでも「まだ100社に営業してないよね、あと10社だけ、話を聞きに行ってみよう」とヒアリングし続けました。そうできたのは、全員が信じられるビジョンを持っていたからです。

 そして今、バクラクシリーズは「さくさくと動くところが好感触」「自動入力が早くて気持ちがいい」「経理業務が楽しくなった」と、UXの良さで選ばれています。今後も、優れたUXを体験できるサービスとして多くのユーザーに選ばれるよう磨き込み続けます。

この記事はシリーズ「福島良典の「新時代の現場主義」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。