既存業務の置き換えだけでは成立しないBtoBの難しさ

 そもそもコンシューマー向けサービスに比べて、BtoBサービスは「UXへの投資」に対する難易度が高い傾向にあります。その理由は、企業内では業務として満たさないといけない要求が高いため、UXがよくとも機能が足りませんというケースでは導入されないからです。

 「既存の作業を文字通り実装すればいいわけではない」としたら、どのようにBtoBサービスを実現すればいいのか。私の肌感としては、「既存の作業をパソコン上に置き換えたもの」より、「既存の作業の課題を解決しつつ、体験として全く新しいもの」のほうが発展しやすい傾向があるように考えています。

 例えば、Slackはビジネスメールと同じ需要を満たしていますが、「チャット」でもあることから社内コミュニケーション活性化の役割も担っています。「Zoom」も、それ以前までに存在していたビデオ会議システムを補うだけでなく「URLを発行するだけでビデオ会議を始められる」という手軽さでビジネスシーンに浸透していきました。既に電子契約サービスが多く存在する領域へ参入した「クラウドサイン」も、紙中心だった契約書をメールやチャット、SlackにURLを貼り付けるだけで締結できるようにしたことで普及しました。

 このように、BtoBサービスとして広く使われているものの多くが同じニーズを違う方法で包括しつつ、新たな役割や価値も誕生させています。

 私たちが向き合う経理業務でも同じことが言えます。ひとくちに「請求書のデータ化業務を効率化する」というのを文字通り捉えて今の仕組みをデジタル化するのではなかなかいい体験にはなりません。その工程における負の部分は何かを徹底的に考えて、一度課題に分解し、理想を追求できる部分と今の業務と地続きで残すべき部分を包括的に考え、解決することが求められます。そのため、バクラクシリーズでは請求書や経費精算で必要な書類を読み込んでデータ化して終わりではなく、同時に稟議(りんぎ)の入力補助をつくったり、仕訳をサジェストできるようにしたりして、経理業務で必要だった工程そのものをなくすソフトウエアにしたのです。

鳥の目を持ちつつ、ユーザーとして「虫の目」も忘れない

 企業には基幹業務があります。どんなBtoBサービスも、そこに入り込まなければ本当の意味でいいUXをつくれません。

 LayerXでは、ユーザーの真のニーズを探るために100社ヒアリングを創業時から継続しています。当然ながら、ヒアリング時にはさまざまな意見が飛び交います。数多ある意見を、LayerXでは2つの基準で優先順位をつけています。

 まず1つ目は「最大公約数的にユーザーが困っているところを攻める」。LayerXでは、経理を担当している方々が一番困っているもの・解決させたほうがいいと感じるものに焦点を当てています。2つ目は「ユーザーが感動するサービス体験かどうか」。我々は「アハ体験」や「Wow(ワオ)があるか」という言葉でそれを表現し、組織で自問しています。各企業の経理担当者が抱える悩みはもちろんですが、サービスを使用したときに「感動するサービス体験」がないとなかなかいまの業務を変えてまでシステムを入れようとはならないだろうと考えています。これをMVP(Minimum Viable Product=実用最小限の製品)として実際に実装し、ユーザーに触ってもらいます。そのプロセスの中でどういったUXをつくるべきかを、ヒアリング内容からひもといていくのです。

次ページ 99社に否定されるBtoBサービスのほうが成功する