「使いづらいことが当たり前」とされてきたBtoB(企業向け)サービスが今、大きく変わろうとしている。その要因は、コンシューマー向けサービスで培われたUX(ユーザー体験)の進化だ。

(写真:的野弘路)
(写真:的野弘路)

 「職場で触れるソフトウエアは使いにくいものばかり」
 「不便なものしかないので仕方がない」

 そんな認識が、コンシューマー向けサービスで培われてきたUXの進化によって大きく変わりつつあります。

 UXとは「User Experience」の略で、ソフトウエアを通じて感じるユーザー体験を指します。そしてコンシューマー向けサービスの代表格といえば「Netflix」や「LINE」「メルカリ」など。これらのサービスを通じて、すでにいいUXを経験している人は多いでしょう。開いたら見たい動画がすぐに出てくる、一瞬で友達とつながれたり、ワンクリックでモノを売買できたりする体験をしてしまったら、もう後には戻れませんよね。

 スタートアップの世界では”Software is eating the world(ソフトウエアが世界を飲み込む)”という言葉がありますが、我々はそれをもじり“UX is eating the business world( UXのいいソフトウエアがビジネス世界を飲み込む)”ということをとなえています──上記で紹介したようなコンシューマー向けサービスのUXが、BtoBサービスへ侵食し始めています。例えば「Slack」。中には家庭内にSlackを導入して家事・育児のタスク管理をしている人もいます。BtoBサービスでよくある「不便さ」を感じさせていない証拠でもあります。

 LayerXではいいUXを「メルカリでの出品体験」のアナロジー(類比)で例えることがあります。メルカリといえば「スマホでパシャッと撮影したら出品情報や価格なども含めてサジェストされ、簡単に出品できる体験」が幅広いユーザーに受け入れられたことで有名です。LayerXが提供する「バクラク請求書」の場合、請求書をアップロードした瞬間に「データの読み取り完了」となる体験を「いいUX」と定義しました。

 しかしながら、BtoBサービスは「既存の作業を文字通り実装すればいい」わけではありません。例えば、今まで紙でやっていた作業の入力先がパソコンの画面に変わっただけというUXでは、よくありません。慣れていない分、今よりも使いにくいものになってしまっている可能性もあります。UXがいいサービスとは、紙を前提とした業務をパソコン上に再現したものではなく、いまあるデバイスや技術を前提に、どういう体験になっているとよいかというものを考え抜くことです。それはそんなに一筋縄ではいかない領域です。LayerXは「いいUX」をどのように実現しようとしているのかを今回は紹介させてください。

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